事の始まりは、やはりO顧問の神の声だった
キレンジャクの飛び物、フライングキャッチの撮影ばかりに熱中していたある日、
O顧問に言われた
「♂♀の写真は撮れたのか」
最初は正直「ええー、まためんどくさいことを〜」と思ったが、よく考えてみたら、ちゃんと撮っていない
THEキレンジャク♂成鳥、♀成鳥の写真を、きちんと撮らなければ、と思った
そして、もうひとつのきっかけは、尾羽と風切が欠損している個体を見つけたことだった
普通は写真として美しくないので撮れても皆さん消してしまう(笑)
右翼の外側から4枚目P6が欠けており、尾羽が5枚抜けて7枚しかない、名付けて
“欠損ちゃん”
西日本では珍しいキレンジャクの飛び物を皆さん狙っていたが、欠損しているぶん飛び方が緩やかなのか撮れるのは欠損ちゃんばかり(笑)
撮れる度みんなに「また欠損ちゃんか」と笑われていた
なんと

欠損ちゃんは2月20〜23日の4日間滞在した
レンジャクは次々違う群れが入れ替わっているとばかり思っていたので、同じ個体が数日間とどまっていることが初めて証明されたのは、新しい発見だった
発見は、それだけではなかった。
顧問に言われてキレンジャクの♂♀の識別を図鑑で調べていた時だったので、あれっ

と気になった
キレンジャクの♂♀成鳥の識別に関しては、初列風切の外弁が黄色、内弁が白色で、黄色と白色で
Lの字を形成し、白色部が太いのが♂、細いのが♀と書かれており、内弁の白色がなく
Iの字になるのが第1回冬羽と書かれている。
古い図鑑(日本鳥類保護連盟の鳥630図鑑など)には♀が第1回冬羽の絵で描かれていることもあるので注意(笑)
これを踏まえると、欠損ちゃんはIの字で第1回冬羽となるが、Iがほぼ白色であることから、♂♀を識別できないものかと考え、あれこれ調べ始めた。
これがキレンジャクの♂♀年齢の識別にさらに興味を持ったきっかけだった。
私は欠損ちゃんは第1回冬羽♀であるとの仮説を立てた。
色々な図鑑を調べていて、初列のIが♂は黄色になるんじゃないかと思ったのである。
しかし、明確な文章で書かれている図鑑がなかなか見つからない。
他に♂♀の識別点として、喉の黒の境界線が明瞭か不明瞭かという点があるというが、これは写真の写り具合や角度で様々な見え方をするので大変難しく、ほとんどあてにならないと思った。
尾羽の黄色の幅が♂が広く、♀は狭いという識別点もあるが、これも写り具合、角度でよくわからない。
初列雨覆の白斑の大きさが♂は大きく、♀は小さいという識別点は、かなり有効かと思われるが、これも羽根の重なり具合で変化することがあるので注意が必要だ。
これらの他に♂♀の識別点として、次列風切先端にある
赤い蝋状物質の個数がある。
日本の鳥550 山野の鳥(山形図鑑)によると♂は4〜8個、♀は0〜5個という記述がある。
これを踏まえると、欠損ちゃんの蝋状物質は3個、色も鈍く形も小さいことから♀を示唆できそうだと思った。
ところが

渡去したと思っていた欠損ちゃんが5日置いて2月29日に再び帰ってきて、3月2日まで3日間滞在したのである
欠損箇所から見て同一個体だと思われる。
しかも
蝋状物質の色が鮮やかに大きくなり数が増えていたのだ
たった5日間で蝋状物質が増えているのが不思議すぎる。
そもそもどうやって蝋状物質ができているのかのびてゆくのかわからない。そんなにすぐに作られるものなのか謎である。
蝋状物質って何なのか、どうやって形成されるのか、蝋状と書かれているけれど、蝋なのかなんなのか謎だらけで、書かれている文献が見つからない。
右が欠損ちゃん。喉黒の境界線は左の個体とも比べても、明瞭とも不明瞭ともよくわからない。
欠損ちゃんが飛んだ。
飛んだところを拡大すると、蝋状物質が少なくとも6個確認できた。
ということは、欠損ちゃんは♂なのか
そんなことを毎晩チームKキッズのヨッシーとマニアック論議をLINEでしていたある日、Iの字が黄色く、♂第1回冬羽と思われるとてもいいサンプル写真が撮れた。
それとほぼ同時に♪鳥くんの比べて識別!野鳥図鑑670に
“♂1W(3月)1Wの初列風切外縁の白色部はI形で黄色がかる”と書かれているのを発見
これによると第1回冬羽の♂♀が識別できることになり欠損ちゃんは♀の可能性が高くなる。
さっそくヨッシーに送ってみたところ、
「この第1回冬羽個体の写真も鳥くん本の写真も3月撮影で、蝋状物質が結構のびているので、この時期に物質が急成長するのでしょうか

そう考えると欠損ちゃんの蝋状物質が急激に増えていても不思議じゃないですよね」という見解、ヨッシーの仮説はすごい

これには私も気づかなかった
結局、風切の色は♀的、蝋状物質の個数は♂的で、答えは出なかったけれど、
今年みたいな大当たりの年だからこその、多くの個体を観察できるこの機会に、♂♀年齢の識別に興味が持てたことに感謝

考える機会を作ってくれた欠損ちゃんに感謝

今までレンジャクは♂♀同色で済ませていたことも、より深く感動した

そういう目で写真を改めて見てみると面白い発見が色々ある
Canon EOS 7D Mark II EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM
画像1、2枚目は2月23日撮影
画像3〜7枚目は3月1日撮影
画像8枚目は3月3日撮影
8枚とも草生地広場にて撮影

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