
連載当時リアルタイムで読んでいた料理勝負マンガです。“突飛”という言い方が一番適しているのではないでしょうか。とにかくブッ飛んでます。
高校に合格したにも関わらず、入学を蹴って洋食の料理人を目指す味平ですが、行く先々でケンカをふっかけられ、短気な味平はその度に勝負を受けます。「包丁試し」「点心礼勝負」「荒磯勝負」「カレー戦争」「ラーメン祭り」など、勝負の内容もバリエーション豊かです。
何度もピンチになりながら、奇策や信じられない運の良さで勝負に勝つ味平の姿が爽快です。「潮勝負」など、塩加減が足りなかったにも関わらず、ポタポタ落ちる味平の汗が汁に混入して、丁度良い塩加減になって勝負に勝ってしまうという運の良さです。
僕が好きなのは「カレー編」と「ラーメン編」です。しょうゆを入れた「味平カレー」や、ドラム缶スープに一本麺の「味平ラーメン」を食べてみたかった人も多いんじゃないでしょうか。
しかし「カレー編」と「ラーメン編」ではいくつかの謎も残っています。
血も涙もない「金貸しの福助」というキャラクターは、屋台でカレーを売る味平にはなぜか好意的で優しいのですが、その優しくする理由が全く出てこないのです。その後登場しなくなるので、伏線は張ったけれど展開していくうちに登場させるのを諦めてしまったようです。読者には福助の存在は未だに「?」のままです。
味平カレーは辛いけれど、その辛さを消す水の温度を発見し、辛くても誰もが食べられるようになります。しかし、その温度は何度なのかは書かれていません。
ラーメン勝負でスープをドラム缶で作りますが、理由が「大量に作った方がなぜか美味しい」という漠然とした理由で、なぜ大量に作った方が美味しいのか、という説明は一切出てきません。
審査員が味平ラーメンを試食して「な、なんと!…そ、そうか…味平がちぢれ麺にしたのはこのためだったのか!」と衝撃を受けるシーンでは、読者にはその理由の説明が一切ありません。読者はなぜ審査員が衝撃を受けたのか、想像するのみです。
味平が麺を茹でている時に「少なくとも麺をゆでるのに10分はかかる…」と言っていたのに、次に茹でる時には「今この麺をゆでるのに3分かかった!」と茹でる時間がかなり変わるのも謎です。
ラーメン勝負はそもそもスープの勝負だけで3日間を費やしているのに、延長決戦まで含めた全ての勝負が終わった後で、味平が「わずか3日間のこととは思えないよ」と言っているのも計算が合いません。
しかし、このような説明不足や矛盾点などを吹き飛ばしてしまうようなパワーと迫力がこのマンガにはあります。小さい事などどうでもいいのです。突っ走るスピード感が爽快です。
また勝負の相手役や脇役が魅力的なのもこのマンガの特徴です。仲代、無法板の練二、包丁貴族の団英彦、マイク赤木、鼻田香作など、かなり強烈なキャラクターです。
以前このブログにも書きましたが、このマンガを描くアシスタントをしていた方と少し前にお会いする機会がありました。味平については「まあ、かなり話には無理があるんですけどね…」と言っていました。でもこのゴリ押しのパワーで味平は面白くなったのだと思います。
ところで当時、赤塚不二夫先生がよく「天才バカボン」の中で「男ドブスの牛次郎」というフレーズを使っていたせいで、このマンガの作者の「牛次郎」という名を聞くと、反射的に頭の中で名前の前に「男ドブス」を付けてしまいます。おそらく「天才バカボン」の影響で僕と同じく「男ドブス」を思い浮かべる人も少なからずいるような気がします。少年時代の記憶というのは恐ろしいものです。