前回の記事にたくさんの温かいコメントをいただき、皆さんありがとうございました。ナゴちゃんは頑張ってます。彼女はいい子です。とても素直です。
素直な人は、すくすく伸びます。
たとえつらいことがあって悩み苦しむことがあっても、必ずまた乗り越えて立ち上がれます。性格が素直で明るいというのは、大切なことです。ありがたいことです。
さて…話は変わって、僕の家の話。昨日はいよいよ母の手術の日だった。
僕は1時半頃に病院に到着して、まずは受付横の精算機で雑費の支払いを済ませてから母の病室へ。一昨日、タオルや寝間着を届けた際に知り合った看護のお手伝いをしてくださっている看護学生の女の子がいたので、しばらく談笑。聞けば彼女はまだ二十歳になったばかりで、8つ年上のお兄ちゃんが1人いるそうな。お風呂で僕の母の体を洗う時「手を握ってくれたんですよ♪」と笑う彼女は、ベッドに横たわる母に「お母ちゃん。可愛い看護士さんに看病してもらえて良かったなあ。」と語りかけた僕に「きっとまた元気になりますよ。きっとなります!」と言ってくれた。
そうこうしているうちに妹が忙しい中、赤ちゃんを連れてやって来てくれた。
手術はほぼ予定通り、2時半過ぎからスタート。先生のお話では、だいたい2時間ぐらいかかるということだったので、僕と妹は休憩室で赤ちゃんを真ん中に置いてお喋りした。昨日の麻酔科の面談も1時間以上待たされたので今日もそんな感じかなあと思っていたが、順調に手術がスタートして良かった。
最近僕はと言えば、正直気持ちが煮詰まってきて、だいぶ疲れ気味だった。父が相も変わらず、あまりにも自己中で細かいからだ。
一昨日僕は、病院で入院費以外の雑費(ベッド代や点滴の食費)の請求書をもらった。その日の夕飯を僕と妻ざわりん、そして父の3人で一緒に食べている時「1万8000円ちょっとかかるみたいだから用意してね。」と言ったら、父は奥の部屋に隠れていちいちお札を数え始めて(苦笑)、そのあと僕に18000円ちょうど渡した。
足らんかったら僕が払えってことか?(苦笑)毎月フルに働いて、その他細々とした資金繰りや商品の仕入れの相談…家族の生活を守るためのおよそ一切合切全てをまとめて面倒を見て、月にたったの5万円しか渡さないのに、である。時給に換算したら、いったい幾らになるというのだろう?生活は明らかに外で働いていた時代よりも厳しい。このままでは、日本一労働条件の過酷な職場だと言っていい(汗)。
普通こういう場合は20000円ぐらい渡して、あわよくば「いつもすまんな。余ったお金で飯でも食べてね。」ぐらい言うものではないだろうか?(呆)自分はなんだかんだと駄々をこねて、どこにも行きたがらないくせに。
人間誰しもそうだが、頑張ったら頑張っただけ報われないとストレスが溜まる。僕は昨日、頭痛が酷かった。母もきっと、こうやってストレスを溜め込んで、脳の病気になったのは間違いない。
僕たち家族の生活を追い込む原因となった、母の莫大な借金。それは、父の異常なまでの細かさゆえだった。母だって女である。洋装店を経営し特にお洒落好きだった母が、気分よく毎日をやる気満々で過ごすためには、それ相応のお金がかかるのだ。父がそれをまるでわかってやれず、かたすぎる財布の紐を握って離さないから、母は仕方なく外でお金を借りるようになった。それがいつの間にか膨れ上がって、あの惨状…。しかも保険証券は紛失してるわ契約書はないわで、もうムチャクチャだ。細かいばかりでは、誰も幸せにはならない。ぐうたらなくせに生真面目な人間は、クソだ。
病院の待合室で、父との一件を妹に話したら、彼女ははらわたが煮えくりかえり噴火寸前だった。
心の病気は誰でもなる可能性があるが、心の病気になったとしても、その人が明るいか暗いか、優しいか自己中心的かで、その後の経過は大きく変わってくる。
根暗で自己中な人は、どんどん自滅する。人の優しさに感謝できず、まるで自分だけが可哀想みたいにしか思えない人は、どんどん具合が悪くなる。他人の細かいところばかりが気になり、自分に甘く他人に厳しい攻撃的な人は、自分で自分を追い詰める。
「廃人みたいになってしもうた、お母ちゃんの顔は見たくない!」と言ったり、挙げ句の果てには「早く楽にさせてやりたい。」とまで言う父は、物事を深く考えない人から見れば「優しいお父さんだね。可哀想に…。」などと思うかもしれないが…本当は、いつも自分の都合しか考えられない小さくて冷たい人。心の病気ではなく、明らかに性格の異常だ。僕はそれを小学生の頃に父に言って、殴られたことがある。昔から勘の良かった僕は、いつだって父に恐れ、忌み嫌われた…。
母の手術は時間通りにスタートしたものの結局、予定よりもはるかに長くかかり、終わったのは夕方6時をまわっていた。既に疲労困憊の僕は、ざわりんと2人で簡単な食事を済ませ、フラフラで帰宅した。
いつの間に眠ったのかもわからないまま、一夜明けて、また朝10時から店を開けた。
先に椅子に座った父の前に、テーブルを挟んで腰掛けた僕は静かなトーンで、掃除をするざわりんに丸椅子の横のストーブをどかすように指示した。全てを悟ったざわりんは、ストーブを慌ててどけて、僕の後ろにどいた。
丸椅子に、僕の前蹴りが、思い切り炸裂した。
吹っ飛んだ椅子が勢いよくぶつかって、ガラスの棚が粉々に割れた。
サッと血の気が失せ、ガタガタと震え出した父親。目はカッと見開かれ、目の前で起こった事態が把握できていない。
「な・何をそんなに怒ってるんや?わ…ワシが昨日、病院に行かんかったからか?」
「いや…違うよ…。昨日なんて、小さなことを言ってるんじゃない。ずっと昔から。そう…昔から、ずっとさ…。」
「何のことや?何のことなんや!?教えてくれ!ワシはわからん!わからんのや!」
涙目で「本当にわからない」といった顔つきの父に、ざわりんが言った。
「お父さん!逃げないで!逃げちゃダメですよ!男なら、まさぼーみたいに、逃げないで受け止めなさい!!」
ざわりんの声も震えていた。
しばし間をおいて…僕が重たい口を開いた。
「なあ。…なんでお母ちゃんがああなったのか…わかるか?」
お金に執着心の強過ぎる、父の性格の異常さ。いつも「家族のために」と口にする父の、根本的な過ち。人を幸せにしない考え方と生き方。
僕はその一部始終を、噛んで含めるようにゆっくりと、余すところなく父に語った。
10分…20分…
黙って話を聞いていた父は、震えながら泣き声でこう言った。
「ワシは…今まで生きてきて、幸せやったことがない。いつも貧乏くじばっかり引いて…ワシはいったい、何がアカンのやろ?…」
僕と父。親子で割れたガラスの破片を拾い集めながら、僕は父に訊ねた。
「お父ちゃんは…何か一つでも、幸せだと思ったことはないんか?」
父は僕の顔を見上げて、こう言った。
「お母ちゃんと、旅行した時…。」
元気だった、華やかな母の姿が、僕の脳裏をよぎった。
「そうか…。」
「あの時は、楽しかったわ…。ホンマに…ホンマに楽しかった…。」
ガラスの破片がチクリと刺さるように、僕の胸が痛んだ。
「お父ちゃんは、あどない(和歌山弁で“幼い”の意味)なあ…。」
あの頑固だった父が、まるで子供のような素直さで、コクリと頷いた。
「そうかもしれん…。」
ガラスの破片を片付け終える頃、そろそろパートに出かけなきゃいけないざわりんが「それじゃ行ってきますね。もう喧嘩しちゃダメよ。」と笑いながら言った。
「喧嘩なんかせえへんよ。ワシら…」
父がそう言いかけたところで、僕が口を挟んだ。
「仲良しやから。」
ざわりんがニコリと微笑んで「じゃあ♪」と手を振った。
「お父ちゃん、息子に怒られるのも幸せのうちやで。」
「うん。」
「お父ちゃんはもともと頭が良いんやから、しっかり受け止めて悪いところは直していこう。」
「いや…ワシは、アホや…。ホンマにアホや…。お前は頭がええさかい…。」
「じゃあ、ちょうどええやんか。アホと頭がええヤツで、名コンビや(笑)。」
父が少しホッとした顔で、小さく笑った。
「ワシは、気も小さいし…。」
「大丈夫。俺は強気一辺倒やから、それも名コンビ(笑)。」
父がますます笑った。
割れたガラスの破片は、元通りにはならない。いや、壊れたものを元通りにする必要などないのだ。
飛び散った破片を一つ一つ拾い集めて、今度はもっと良い形に並べればいい…。
母の保険金のため必要な書類を手配するために印鑑と保険証を鞄に詰めた僕は、お気に入りのオーバーコートに身を包んで、いつものように帽子を目深にかぶった。
「今日も俺は出かけなきゃいけないから、店は頼んだよ。」
父はいつになくキリリとした顔で答えた。「はい。頑張ります!」
今日の出来事をきっかけに、来月からは店のお金は全て、僕が任されることになった。妹も、これで安心することだろう。妹夫婦には、これまで本当にお世話になった。そのうち心ばかりの金一封でも渡して、みんなで美味しい料理でも食べに行こう。
「家族のために」「みんなのために」と口にするのは簡単だが、結果的にみんなが潤い楽しく暮らしてゆけなければ意味がない。独りよがりな「幸せ願望」は、空回りするだけ。自分も周りも、ただ疲れさせるだけ…。
幸せを祈るのは、人間誰しも同じこと。しかし父も母も、「そのやり方」を間違えたのだ。
間違いは、正せばいい。
罪を憎んで人を憎まず。精一杯頑張ってきた父の人生を全否定するつもりはない。父も母も頑張った。ただちょっとばかり、ボタンをかけ間違えただけさ…。
みんなの幸せのための僕の蹴りは、父の心のガラスを打ち砕いた。
少々荒っぽいやり方ではあったが、鈍感な父には、このくらいがちょうどいい。意識不明で病床の母も、きっと笑ってくれるだろう。
「どうだい?お母ちゃん…。」
外は雪。僕たちが暮らす和歌山の街に、初雪が舞う。
店の床に散らばった、割れた小さなガラスの破片が、
キラキラと光っていた…。
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