今日はお忙しい妹のご主人がようやく休みをとれたので、妹夫婦と僕たち夫婦、そして妹夫婦の可愛い一粒種・かずまちゃんの5人でお墓参りに行ってご先祖に手を合わせ、その足で母のお見舞いに行った。
最初に病室に入った僕が大きな声で呼びかけると、この5日間ずっと意識不明で眠り続けていた母が、うっすらと目を開けた。
「お母ちゃん!わかるかい?みんな来てくれたよ!ほら、かずちゃんもいるよ!わかるかい?お母ちゃん!」
妹たちも慌てて部屋に入って来る。「お母ちゃん!わかる?京子やで!かずまも来てるよ!お母ちゃん!」
みんなで呼びかけると、母は首だけ動かして静かに頷いた。体は動けないが、母の意識が回復しつつあるのだ。
一同、ほっと一息。安堵と喜びの空気に白い病室が包まれた頃、突然かずまちゃんが大声で泣き始めた。
子供は正直だ。
頭に白いネットをかぶり、口に酸素補給器をつけてベッドに横たわるおばあちゃんの姿が怖かったらしい。
僕がまだ小さかった頃、自宅の一室で、僕の父方の祖母が癌と闘っていた。
見たこともない器具に吊された点滴。痛みと苦しみに顔を歪めて時折声をあげるおばあちゃんの姿が子供だった僕にはとても怖くて…おばあちゃんの部屋にはあまり近寄れなかったことを思い出した。
生まれてまだ何年も経っていない子供は、優しい家族たちに囲まれて溢れる光の中で生きているもの。だから病気や死など否応なしに闇を感じさせるものが大の苦手だ。やがて成長し、いろいろな体験を経て、世の中はけっして光ばかりで成り立っているわけではなく、光と闇のバランスで成り立っているのだということを理解する時、人は大人への階段を昇り始めるのだ…。
かずまちゃんが泣き止むのを待ってから僕たち5人は病室を出てナースステーションに立ち寄り、何か必要なものはないか訊いた。看護士さんによると足が鬱血しないようにタイツが要るとのことだったので、僕たちは妹のご主人の車で一路、ショッピング・ストアへと向かった。
日曜のショッピング・ストアは、とても混んでいた。
娯楽の少ない田舎町の和歌山では、食べて遊んでショッピングできるこの手のストアは貴重な存在である。競争が激しい中、何件かは潰れたが、生き残ったところはどこも混んでいる。
まるで高速道路の渋滞のように混み合う坂道をグルグルとビルの周囲を回りながら昇り、屋上の駐車場にやっと空きを見つけて車を停めて、中で母のタイツを購入。
飽きてきたかずまちゃんが「ママ!ママ!」と泣き出した。僕はしゃがんで大きく両手を広げ、「かずちゃ〜ん!こっちへおいで〜」と笑って言った。かずまちゃんがトコトコと駆け出して、僕に抱きついた。抱っこして撫で撫でしながら、満員の店内を歩く僕。笑顔の妹。今度は僕の腕から妹の腕にバトンタッチ。泣き止んだかずまちゃん。そして僕たちは、店内のミスタードーナツで休憩した。
そこのミスタードーナツはどうやら禁煙のようだし、小さいかずまちゃんがいるので、僕は煙草は控えた。
その内かずまちゃんが大好きなアンパンマンの乗り物を見つけて乗ろうとしたが、よその子に先に乗られて、また泣き出した。
グズって床にしゃがみこんでしまった、かずまちゃん。真っ赤な泣き顔のかずまちゃんを僕がまた抱っこして、頭を撫でる。
かずまちゃんと僕は、すっかり仲良しだった…。
僕は昔から、子供とおじいちゃん・おばあちゃんにウケが良い。子供の頃から朗らかで一風変わった雰囲気の僕は、どうやら人をとても和ませるキャラクターらしい。
人にはそれぞれ、その人だけの個性がある。それは世界広しと言えども二人といない、たった一つだけの個性。宇宙に一つの宝物だ。
妹には妹のキャラクター。妹のご主人には妹のご主人のキャラクターがある。そして僕、僕の妻ざわりんもみんな、一人一人が見事に違うキャラクター。それが本当に素晴らしいし、だからこそ互いに足りないところを補い支えあえる。
この世界に、要らない人間など一人もいない。一人一人が、かけがえのない個性。かけがえのない命…。
価値観も個性も性別も、互いに異なる様々な人々でごった返すショッピング・ストアを出て、父が待つ家に帰った。
母の意識が回復し始めたことを伝えたら、父は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、その後すぐにまた沈痛な顔に戻って何かを言い始めた。
「しかし…」
いつもの否定型で始まった父の言葉を遮るように、僕が即座に口を挟んだ。
「お父ちゃん。この前言ったやろ?先のことを考え過ぎるのが、お父ちゃんの悪い癖やって…。先のことは、誰にもわからん!(笑)そやから、今は素直に喜んでおこう!」
何でも先回りして、物事を悪いほうに悪いほうに考えてしまうのが、生真面目で暗いところのある父のキャラクターだ。良くも悪くも、それも個性。だからそれを否定して、相手を悲しませたり怒らせるのではなく、父とは違う個性を天からいただいた僕や家族のみんなが、支えてあげれば良いだけだ。そうやって父のフォローをすることで、結果的に僕たちもまた成長させていただける。人生に、損なことなど何一つない。
僕からかけられた言葉に、思わず我にかえった父は、息子の顔を真っ直ぐに見て…それから照れくさそうな表情で、こう言った。
「そやな。そうやったな…(苦笑)」
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