「お大事に。お気をつけて。」
今日まさぼーは、1人の患者さんを玄関からお見送りしました。
40代半ばのその女性は、短く刈り込んだ髪に透き通るような白い肌。そしてガリガリに痩せ細った体。
若いのか老けているのかわからない風貌で、いつもうつむいたまま顔をけっしてあげません。今回は神経内科の診察での入院でしたが、どうやらかなり重度の精神疾患を患っている様子でした。。
付き添いにいつもついていたお父さんは感じの良い方で、いつも穏やかな笑顔を欠かさない体格のいい人。恐らくは接する誰もが好印象を持つタイプでしょう。
しかし僕は、疑問に思いました。このお父さん、本当に良い人なのだろうか?と。。
精神疾患の多くは、親子の問題に起因します。幼少期からの不適切な親子関係によって作られた病的な因子が、成長後のトラウマ的体験によって開花してしまう。それが心の病です。
まさぼーはボーダーライン=境界性人格障害という病気を持っていますが、これももちろんそうやって形作られました。
父と母。この2人との長年にわたる異常な関係。それによって僕は、他者との距離感が掴みにくい大人になってしまったのです。
ですから、心の病気は概ね“親のせい”ということになってしまいます。そのことを以前ブログの記事に書いたら、精神疾患について知識のない方から「いい年して親のせいにするな!家に引きこもってゴロゴロしてばかりいるから病気になるんだよ!」という、とんでもない思い込みと誤解に満ちた短絡的な批判を頂戴しました。
これはもちろん間違いで(苦笑)、もう一度繰り返して申し上げますが、心の病気(特にまさぼーの病気)は間違いなく“親のせい”です。
しかしながら、ここで読んでくださる皆さんに誤解していただきたくないのは、たとえ病気になったのは親のせいだとしても、病気になった自分を何とかしなかったのは、自分のせいだということです。
そう…まさぼーの例で申し上げますと、僕がボーダーラインになったのは“親のせい”だとしても、ボーダーラインになった自分をかばって長年グズグズしたのは、自分が悪いということなのです。
これは、僕たち病気を抱える者にとっては、非常につらく悔しく残酷な結論です。
この我々が生きる現世において、子は親を選ぶことができません。心身ともに健全な親のもとに生まれれば幸いですが、たまたま心を病んだ親のもとに生まれれば、その人の人生は否応なしに闇に彩られることになってしまいます。
だから僕も若い頃は、他人を羨ましいと思ったり無い物ねだりを繰り返してきました。
悩み苦しみ抜いたあげくに「なんでこんな親のもとに生まれてしまったのだろう?こんなにつらく悲しい思いをするなら、死んだほうがマシだ!いっそ、親を殺して自分も死のうか?」とすら考えたこともありました。
しかし、それでも人生は悪いことばかりではありません。まさに命の危機にすら、たびたび直面してきた僕を、親身になって救おうとしてくれた何人もの大切な人々。その方たちの愛によって僕は命を救われ、気がつけばこの年になるまで、それなりに幸せな人生を生き長らえてきました。
心の病気は、人のせいにしている間は絶対に良くなりません。
生きていると、本当につらくて悲しい出来事がたくさん起こります。そのことごとくは、人間の小さな自己愛に基づくもの。だから自己愛にとらわれる余裕がないほどにまで追い込まれないと、真実にはなかなか気づけないのです。
今この年になって自分自身を振り返ってみると、あんなに苦しい苦しいと思い込んでいた若い頃の追い込まれ方など、実はまだまだ入り口ですらなかったような気がしています。
ではそれが何であったかと言うと、“考えるための素材”だったような気がするのです。より深くより成熟した大人になってゆくための避けられない通過儀礼だったような気が、今はします。
僕もまさにそうだったのですが、若い頃は理想が高く、そして他人との比較癖がつきまといます。
もちろん夢を持つことは素晴らしいことですが、あまりに高すぎる理想を掲げてしまうと、逆にそれが足かせとなって身動きがとれなくなってしまいます。要は、自分らしく生きられないのです。
精神疾患を治療するためには、自分の足元を見つめ、“親との問題”を真摯に理解し解決してゆく以外に、方法はありません!
自分自身が歩んできた長い長い道のりを見つめ、自分の長所も短所も極めて冷静に客観視してこんな記事を書かせていただいている僕なんか、何十年苦しみに苦しみ抜いて、やっとこさここまでたどり着いたのです。
そう…両親は衰え、自身もまた42年の歳月を重ねて迎えた今が、やっとスタート地点。
何十年も、それこそ必死で生きて生きて、やっと本当の人生が始まったのです!
一朝一夕にはゆきません。つらいつらい道のりです。。
だけれどその真ん中にいる時はただつらいだけでも、後になって振り返れば、それは実はたくさんの愛に彩られた温かい道のりだったことに気がつきます。。
結果は、後になってからしかわかりません。
だから、今まさにつらい道のりの真ん中にいる若い方には、まさぼーの心からのメッセージとして、この言葉を贈りたいと思います。
「他人ではなく、自分自身を見つめよう。自分を愛することからはじめよう。小さな震える心をこれ以上傷つけるのは、もうやめよう。親子の関係を見つめ直そう。可能ならばお父さんお母さんと話しあってみよう。それが難しいなら、同じような経験のある信頼できる大人に相談しよう。」
遠回りや回り道は自分らしく生きる道です。そのスタートは、今日からでも明日からでもOK。自分のペースでいいのです。
幸せになるための道なのだから、のんびり歩けばいいのです。。

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