菓子パン
ではなくて、香椎パンクス。
香椎は福岡市のイースタン地区に位置する、市内では4番目くらいの大きさになる地方都市だ。
古事記にもその名の由来が記されているという、国の重要文化財にも指定されている香椎宮を街のお社として栄えたこの街は、私鉄とJRの中継地点でもあり、その交通の便のよさから、幾つもの大学や高校が建てられた学生街でもある。
こじんまりとした並木道の沿道にはそれなりのブティックや飲食店が並び、当時、まだバブルの面影もあった頃はそこそこの活気があった。オレがギターと間違えてベースを初めて買った楽器屋もこの沿道沿いにあり、この街には、スタジオもライブハウスもあった。
第五学区の端に住んでいたオレは、この街の駅を通り過ぎ、さらに電車で東の奥の高校へと通っていたが、香椎に住む友達とバンドを組むようになって、次第にこの街がホームタウンとなっていった。
当時、この界隈でたむろっているパンクロッカー達の事を総じて、香椎パンクスと呼び、天神や北九州辺りとはまた違う、一種独特な雰囲気のシーンを作っていた。オレは友達に連れられて、その輪の中の端っこくらいに入っていた。
中学時代は、周りに楽器が弾ける奴も、音楽の趣味が合う奴も居なかったオレにとって、年上も年下もウェルカムウェルカムな彼らの集まりはとても新鮮で進んでいると感じていた。
初めてステージで演奏した時の事だ。
ただただ緊張するばかりで、棒立ちで、何をやったかも憶えていない、達成感なのか何かも分からず、自分のステージが終わってただ放心状態で、オレは他の対バンのステージをぼおっと客席から眺めていた。
イベントもそろそろ終わろうかという時に、ライブハウスの入り口辺りが妙にざわついた。
「先輩達が飛び入りで何曲かやるらしいぜ!」
地元の高校生達で埋め尽くされた客席をかき分けて、ステージに上がった先輩達は、髪の毛をギンギンに逆立てて、ラバーソウルにボンデージ、鋲を打った革ジャンにはペイントを施し、低く構えた黒のレスポールを軽くかき鳴らして、ピストルズのノーフィーリングスが始まった。その後にラモーンズのリメンバーロックンロールレディオに日本語の歌詞を載せて歌っていた。
強烈な印象だったから、今でも憶えている。
コンバースにボーダーのシャツで何とかステージに立つ体裁を作ったオレたちとは次元が違う、洗練されていて、スピードがあって、場数をこなしている事から裏付けられた、ステージを楽しんでいる自信のようなものがあって、オレは圧倒されていた。
ステージから降りた先輩達は、まあ……、時効という事で大目に見て欲しいんだけど、初ライブを満足にできずうなだれる後輩達に向かって、こう言った。
「ようし、お前ら、飲みいくぜ!」
あれから、もう25年くらい経つのだろうか。
ミュージシャンとして東京に出てきて、オレにもそれなりのキャリアもできた。
そういう繋がりもあって、下北のライブハウスに友達のライブを観に来ていた。
ライブが終わってうだうだとだべって酒を飲んでいると、どこからか声が飛んできた。
( ´∀`)「んー?なんか九州ぽい言葉が聞こえるけど?兄ちゃん九州やー?」
九州弁が聞こえたからというだけで話しかけてくるとは、まあなんとフランクなお人なんだと思ったが、九州人なので、そういうのもままある。
昔、路上でサラリーマンのおっちゃんに博多弁だからと声をかけられて焼き鳥奢ってもらった事もあるしな。
(・∀・)「ハイ、僕、九州っす!」
オレは即答した。別に焼き鳥を期待した訳ではない。
( ´∀`)「お、九州どこや?」
(・∀・)「博多っす!」
( ´∀`)「博多?マジ?俺、香椎」
(・∀・)「マジすか学園!僕も高校の頃香椎だったっす!」
( ´∀`)「お、香椎パンクスしっとうや」
(TдT)「って藤井先輩じゃねっすか!!ギャー!」
マママママジでっ!
尿道結石が弾丸のように飛び出すかと思ったぜ!
あの時の先輩と再会した!
藤井先輩は、大学で関東に出た後、えびというバンドでイカ天に出て一躍人気バンドになった、香椎パンクスのカリスマ的存在。ちなみに香椎パンクスの中には、今や世界的ファッションデザイナーになっちゃったミハラヤスヒロ氏もいるという、実はすっごい集まりなんですよ、知ってた?って知るわけねえか!
( ´∀`)「ようし、お前、飲み行くぜ!」
なんという既視感。
オレは25年前の高校生の頃に戻ったようにヘエコラ先輩の後について、近くにある先輩行きつけのバーへ。しこたま飲んで店の中でパンクかけて踊ったりした後に
( ´∀`)「アレ!俺、お金持ってねえや!」
先輩ェ……!
とりあえずそこは明日、お金を届けるという事で見逃してもらって、じゃあ帰るかという事で、僕はタクシーで……、と言うと、お前の家だと壱万くらいかかるからもったいないし、じゃあ俺の初台の事務所に行こうぜという事になって、初台までタクシーで行って、コンビニの前でタバコ吸ってたら、怪しげな若者がライターを貸してくれと話しかけてきたら、先輩がお前ぇ、どこ中やー?的なノリで話し込みはじめた。
( ´∀`)「ようし!おまえ、飲み行くぜ!」
先輩ェー!!
コンビニで酒を買い込み、初めて会った怪しげな兄ちゃんの家に行って3人で酒盛りして、さすがに疲れてきたので、そろそろ行くかと兄ちゃんに別れを告げ、先輩の仕事場で気絶するように寝た。
朝起きて気づいたのだけど、結構大きな一軒家をぶち抜いて作られたオフィスで、先輩はデザイン事務所を経営してるという事だった。つか、初台の駅近で一軒家の事務所構えるって一流じゃねえっすか!看板に株式会社って書いてあるし!
( ´∀`)「あー、腹減ったなー、飯食いに行くかー」
近くのガストに行ったら、インド人の人が給仕していたので、ナマステ〜と挨拶して、じゃ、ビール!と、飯を食わずにビールを5杯くらい飲んで店を出た。
先輩は「あー、金払いに行かなくちゃなぁー」と言いながら、下北をスルーして電車で自宅へと帰って行った。先輩ェー!
メチャメチャパンクでハッピーでウェルカムな一日やった。
やっぱパンクスピリッツって最高やー。
いっぱい奢ってもらって申し訳ないっす!m(__)m
そろそろ今日は新宿に行く用意をしなくては。
久しぶり新宿行くのこええー。
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