GURURURU・・・
土煙をあげてこちらに向かってくる一台の荷馬車を発見し、保安官はすぐさま馬を走らせた。
「待て待て待てーい!そこの二人!」
「ヘイ、なんでしょうか・・?」
荷馬車を走らせていたのは、まだ幼さが抜けていない二人の小年。面影がどことなく似ており、すぐに兄弟だという事が分かる。
保安官は馬を荷馬車の前に割り込ませてその行手を阻み、御者台に座っている二人に詰問した。
「お前らどこに行くつもりだ?ここは国境地帯だぞ。この辺りでお前らみたいな子供にうろちょろと遊ばれては仕事の邪魔だ、即刻立ち去れい!」
「いえ、違います、あっしらは故郷のおっ母が病気だって知らせが来たもんで、旦那様から暇をもらって故郷に帰る道中でごぜえやす・・・」
「なにぃ?それは本当か?ちゃんと通行証は持っているんだろうな?」
「ハイ・・ここに・・・」
薄汚れた麻袋の中に、少な過ぎる旅路の荷物と共にそれは入っていた。雨風にやられて多少くたびれてはいるが、まだ確認できなくはないその「通行証」を取り出して保安官に差し出すと、保安官は乱暴に少年の手から剥ぎ取り、厳しい目つきで通行証と二人の顔を交互に見て確認した。
「・・・・・フム、してお前が兄のGARYか?」
「ハイ」
「そしてこっちが弟のBENか」
「うん」
「一応聞いておくが、この積み荷はなんだ?」
「ハイ、それは旦那様が手土産にとくださった、とれたての牡蠣でごぜえやす。今の季節が旬ですので、旦那様がこれで病気のおっ母に精をつけてあげなさいと・・・。あっしらにこんな高級品をわざわざ包んでくださって・・・感謝の言葉もねえです。だから一刻も早くおっ母に食べさせてあげたくて・・・」
その言葉を聞いて、保安官はしばしの沈黙の後、伏し目がちに「そうか」と小さく呟いた。テンガロンハットのつばを深く下げ、もう二人の顔を見ることは無かった。
「ようし、行け!門を開けろー!」
そう叫んで、保安官は、また詰め所の方へと馬を走らせ帰っていった。
ゴゴゴゴゴ、とけたたましい地響きと共に重々しい鉄の扉がゆっくりと開いていく。
開けられた隙間から光が差し込んで来、その光彩にGARYとBENは目がくらんだ。
自然と唇の端が釣り上がってしまい、にやけるのを堪えきれない。
全て嘘だった。
二人の帰りを待つ病気の母も、快く送り出してくれた奉公先の優しい主人も、そんなものはいるはずもなかった。
戦争孤児の二人が引き取られた先での扱いは、奴隷同然であった。
残飯を喰らい、毎晩代わる代わる主人の慰みものにされながら、じっと耐え、機会をうかがっていた。
昨日の嵐の晩、冷えきったシーツの中でBENは、鼻息を荒く覆い被さってくる主人の喉元を、隠し持っていたナイフで一息に掻き切った。
降り注ぐ鮮血のシャワーは暖かく、心地よささえ感じた。血塗られたナイフは、自由への扉をこじ開ける鍵に思えた。
死にゆく醜い豚の咆哮は、窓を打ち付ける雨音と雷鳴に都合良く掻き消された。
すぐにGARYとBENは荷馬車を奪い、屋敷から逃げ出した。嵐が犯行の発見を遅らせ、返り血を洗い流してくれる。逃走するのにこれほどうってつけの状況も無かった。
そして今、この逃亡劇もやっと終わりに近づいている。二人はそう確信していた。
顔を見合わせしっかりと腕を組み合い、お互いの名前を呼び合う。
「GARY兄さん!」
「行こう!BEN、もうあんな生活とはオサラバだ!」
「「俺達は自由だ!!」」
行けえ!とGARYは叫び、力任せに馬の尻を鞭で引っ叩いた。馬は嘶き大きく前足を上げ、大地を割らんばかりに力強く地面を蹴った。荷馬車はすぐにトップスピードに達し、目の前に見える光の源泉を目指し足場の悪い傾斜面を跳ね、ひっくり返りそうになりながら下っていく。
振り返れば、さっきの保安官が鬼の形相で、今まさに越境せんとする二人を阻止しようと馬を馳せ向かってきていた。やはり手配書が回ってきたようだ。だがそれは既での所で間に合わなかった。この距離では最早もう追いつく事はできまい。
大地はマグマのように激しく脈を打ち、今にも車輪が弾け飛びそうだ。
「ヒャッハー!!出るぞー!」
GARY・BENの兄弟は感嘆の声をあげて、狂ったように馬に鞭を打つ。もう出口はすぐそこまで迫っている。
太陽の光を追い求め、その身を焼いたイカロスのように。
たとえこの身体が焼きつくされようとも構わない、二人に後悔はなかった。
あの光を目指して!
ーーーー 自由と魂の解放を求めて! ーーーー
ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!
アッツウーーイ!!
と、オレはそのような物語にも似た、過激なパッションをケツ穴に感じてテーブルに伏した。
これオナラじゃない!may beオナラじゃないわね!オナラと思ったら完全にブツよ!きっとゲリってるベン(GARY・BEN)だわよ!もしかしてだけどぉ、もしかしてだけどぉ、今のオレって大ピンチじゃないのぉおぉ!
ここ喫茶店なんすけど!喫茶店なんすけどー!
ああ・・・、昨日、ボーナスの未払金が入ったとかなんとか知らんけど、とにかく臨時収入があったから奢ってやると誘われて、ここぞとばかりに刺し身とか生物食い過ぎたぜ・・・。あの生牡蠣にやられたくせえ・・・。
家まで約2キロ、オレは人目を避けながら裏路地をダッシュしていた。
そう、まるで逃亡者のように。オレの背後に立ったらマジコロス!
なんで逃げないといけないのだ。シット。
冬だからと、生物を食するに気を抜いてはいけない。長かったが、ただそれが言いたいだけである。
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