閉店間際のゲームセンター。
それは、一人の女性とすれ違った事から始まった。
彼女の肩掛け鞄の掛け紐が胸の谷間に割り込み、そのふくよかな二つのメロンディーヌの形を一層浮き上がらせるという夏の風物詩、ネットで言われるところの「π/(パイ・スラッシュ)」に目を奪われたのでは無い。
今時の女の子には似つかわしく無い、奇妙な図柄のTシャツを着ていたから、俺はそれが気になっただけで、たまたまそこに胸があったに過ぎない。
断じて言うが、俺が凝視していたのは、Tシャツの図柄であって、その内に隠されたレモンちゃんをあわよくば透視しようなどとは、露ほども思ってなどいなかったのだ。
それなのに、彼女は「ヒェッ・・・!」と小声で囁いたかと思うと、リオネル・メッシの横ドリブルみたいな感じで俺を抜き去り、何処ぞへと行ってしまった。Oh NO・・・(´д`)
呆然と立ち尽くす俺であったが、目の前にひとつのゲーム機の筐体がある事に気がついた。
UFOキャッチャー。
しかもその中にあるものは、今しがたすれ違ったスイカップ嬢が着ていた奇妙な図柄のTシャツと同じものが、今にも落下口にダイブ寸前の体で、だらりと力なく半身を乗り出し、不安定極まりない奇跡のバランスを保っていた。
こ、これはまさに・・・。
景品界のたれパンダやぁー!!(゚Д゚)
俺の中の彦摩呂が叫ぶ。俺の中の彦摩呂って何だ?
ともかく、これは誰が見ても景品獲得のフラグが立っているではないですか。
まるで神が俺にこのTシャツをゲッツしろと言っておられるかのように。
もしかしたら、彼女はそれを予見する使いのエンジェル・パイだったのだろうか?そうだ!そうとしか考えられぬ!しかし、だったら何故逃げるの?ホワイ何故に?もっと見せてくれたっていいじゃない!ちぇっ。
・・・とにもかくにも、この不自然な予定調和感はもはや神の意思としか考えられぬ。だったら乗るしかない、このビッグウェーブに・・・!
一回200円、三回500円。
俺は迷わず 500円をチャージした。
手負いのたれパンダを狩るのも全力を尽くす。それがゲーセンというサバンナの掟。
「おい、あれもう落ちそうじゃね?」
「えーマジぃー」
・・・ほら見ろ、 つがいのハイエナ共がチラチラとこちらの様子をうかがっているではないか。夜の街に巣食う不埒な獣共め、今すぐ俺の狩り場から立ち去れい!ガオ〜。百獣のゲーセン王である俺はキバを剝き、奴らを威嚇する。もちろん心の中で。
ニヤニヤと下卑た笑いを投げかける畜生共を黙殺し、俺は目を閉じて神経を集中し、精神を統一する。
ざわわ・・・ ざわわ・・・。
聞こえる・・・。
母なるサバンナの息遣いが。
大地の波動と己の魂の「ゆらぎ」が完全にシンクロしたその刹那、俺のチャクラが開眼するッ!
ここだッ!クワッ!
ウィ〜ン……
ファサーーー
……NO!(´Д`)
キャッチャーハンドはたれパンダの横腹をただ慈しむように撫でただけであった。
ポイントは完全に捉えていたはずなのに、なんというフェザータッチなのだ。
こ、これはまさに・・・。
キャッチャーハンド界のAV男優やぁー!!(゚Д゚)
やかましいわ!黙れ、彦摩呂!
くそっ、完全にはめられた・・・、あそこまで機械の握力が弱いとは思わなんだ 。一度の挑戦でこのバトルが難題難問の無理ゲーだという事を痛感させられる。打ちひしがれ、筐体にもたれ立っているのがやっとである。額から脂汗が滲み出る。どうすればいいんだ、まだ後2ゲームも残っているではないか。さあ、どうするっ・・・。
その時である。
頭上に暗雲と立ち込めたもやを突き破って、幾筋もの光芒が差し込み、天上から聞こえてくる確かな声。それはどうにもできないと思われた絶望と不安を打ち払い、一筋の光明となり俺を導く神様からの啓示。 カッツォよ・・・、お前が取るべき道を教えてしんぜよう、それは・・・
「あれ、 摑むんじゃなくて、押して落とせばいんじゃね?」
「だよね〜w」
くっそ! 空気読めや、このハイエナカップルめ!割り込んでくんじゃねぇし!(゚Д゚)
知ってたし!知ってたしっ!
俺の方が一瞬先に気づいてたしっ!もうあっち行け!シッ、シッ!
俺が力尽き、獲物の捕獲を諦めるのを今か今かと待ちわびる、小汚いハイエナカップルの今夜これからの動向を考えると、なんか知らんけど、ものっそ意地でも渡したくない気がするぅ!くそ!くそ!フォォォオ-!!ええ、私は器の小さな男ですが何か?!
掴んでダメなら押してみろ。今一度、古から語り伝えられてきた恋愛攻略の基本に立ち返って、俺の豊富な人生経験の全てをのせて戦い、そしてヤツラに勝利するのだ。いざゆかん!GO!キャッチャーハンド!
ウィ〜ン……
ファサーーー
……NO!(´Д`)
ウィ〜ン……
ファサーーー
……NO!(´Д`)
ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)ウィ〜ン…… ファサーーー ……NO!(´Д`)……and endless。
・・・ハァ、ハァ・・・。
アカン・・・。よう考えたら、女性を押し倒すより、押し倒されたい願望の方が強いド・Mだったわ、俺・・・。性格的に力づくで押し倒してモノにする事ができない地球にやさしいECOドライブ男やん。そもそもがこの戦法は俺には無理がある。もう、どんだけ貢ぐねん。ボロボロや・・・おっちゃんボロボロやで・・・だが、それがイイッ!あふぅ(´Д`)ハァハァ
年若い小娘にいいように弄ばれ、身も心も壊され堕ちていく中年オヤジの狂気の沙汰だったであろうか、俺は泣きながら笑っていただろうか、フヒッ、フヒッ・・・とヨダレを垂らしながら恍惚とポケットの中を弄り、最後の500円玉を取り出そうとしたその時、横から人影が視界に入って来た。
「なかなか落ちませんねえー」
振り向くと、そこにいたのは・・・
麗しのスイカップちゃん!(*´∀`*)
だったら良かったのに!(´Д`)ただのゲーセンの店員のニーチャンだった。
店員のニーチャンは影からずっと俺の奮闘ぶりを見ていたのだろうか「おかしいですねー、もう落ちてもいいハズなんですけどねぇー」などと言いながら、筐体のガラスケースの鍵を開け、景品の位置をずらしてくれた。
「ハイ、これで大丈夫と思うんでー。どうぞ」と、ニッコリ。
なんという慈愛に満ちた微笑みなのであろう。嗚呼・・・もう抱いて・・・つか、節操ねえな、俺。
ウィ〜ン……
グイグイ……
……ポトリ。
……ゲッツ!(σ・∀・)σ
俺が景品獲得に歓喜する中、ハイエナカップルは音もなくその姿を消していた。
−−− ナレーション in −−−
2014年。
突然現れた超大型巨乳娘、及びハイエナのギャラリーによってすべての日常がUFOキャッチャーとともに破壊された。
戦いは一応の終焉を迎えたが、その代償2700円はあまりにも大きく、買った方が早いんじゃねえのか?との非難も続出したが、景品を手に入れた事によって、荒ぶる後悔の念も次第に収束を迎えた。
しかし、人類は、自分達が何に捕らわれているのかを知るには、まだ時間と犠牲が必要だった・・・。
どみなせっせーじずびえーがー。はっ、はっ、レ・バ・ニ・ラー。
「 進撃のUFOキャッチャー。第一部 完 」(´Д`)しかし、なんか釈然としねえ!
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