ステップ (中公文庫)

雑誌への連載中タイトルは『恋まで、あと三歩。』だと記されている。若くして妻(朋子)に逝かれて残された夫(健一)が幼い娘(美紀)の子育てに悪戦苦闘しながらも新しい自分自身への一歩、新しい恋への一歩、義父母とその家族の歩みと再出発の物語であった。娘の美紀ちゃんの保育園から小学校卒業式当日までを折々の季節・行事とともに綴り描いていく。
「美紀ちゃん素直すぎ!」とか「周りの人間できすぎ!」とかの評を目にする。美紀ちゃんのように真っ直ぐに成長する子も、曲がる子もいるだろうし、周りもいい人ばかりいるわけではない。世の中,この物語のようにはいかないって云うのは百も承知。でも、このような境遇に立った時、この美紀ちゃんのように多少おませな子であっても、真っ直ぐに育って欲しいと願うだろうし、周りの協力もこのようであったらなぁと思うのは私の甘えでしょうか。
「永遠の不在」をどのように受け容れ、一歩を踏み出すか、誰もが経験するテーマではないにせよ、我が身に起こらないとは云えない。今の立ち位置でけっして響かない言葉や情景かもしれないけれど、このテーマに触れ考えておいても害にはならないだろう。
「一生懸命なひとがいる。不器用なひとがいる。のんびりしたほうがいいのはわかっていても、それができないタチのひとがいる。...」
「数えきれないほどの今日を昨日に変えていって、いま、僕たちはここにいる。」
「アリとキリギリスの話あるだろ。イソップだっけ。あれは半分間違ってるよ。...」
「悲しみや寂しさは、消し去ったり乗り越えたりするものではなく、付き合っていくものだと...」
前後の文脈なしに一文一文の意を推量するのは難しいだろうけれど、なにげないこれらの言葉がスーッと沁みてくる。久々に重松清氏の作品を手にしましたが、やっぱり今回も重松節にじわじわと温められ、目から汗のように滲んでくるものを手の甲で拭いながら読了しました。

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