壬生義士伝 下 (文春文庫 あ 39-3)

『男心に 男が惚れて〜♪』は、国定忠治だろうが、此処にも惚れてしまうほどの強さとどこまでも優しい男がいた。
このような男でありたいと思うが、どう逆立ちしようが到底無理な話で、だからこそ、憧れもし感動もするのだろうと思う。
上巻に引き続き、語り手が代わる代わる、吉村貫一郎の生涯とその子ども達らのその後を追っていく。
下巻の最後に候文がある。吉村貫一郎に「腹を斬れ」と断裁した蔵屋敷差配役であり吉村の旧友 大野次郎右衛門が吉村の末息子を託する豪農 江藤彦左衛門にあてた手紙である。読み飛ばし終えようとの狡い気持ちをはらい辿々しくも読んだら、此処にこそ話の真骨頂が集約されていた。
『本邦日本者 古来以義至上徳目ト為シ候也
乍併 先人以意趣 義之一字ヲ剽盗変改セシメ
義道即忠義ト相定メ候
愚也哉 如斯 詭弁天下之謬ニテ御座候
義之本領ハ正義ノ他無之 人道正義之謂ニテ御座候
義ノ一度喪失セバ 必至 人心荒穢シ
文化文明之興隆如何不拘 国危シト存ジ候
人道正義之道扨置キ 何ノ繁栄欣喜有之候也
日本男児 身命不惜妻子息女ニ給尽御事
断テ非賎卑 断テ義挙ト存ジ候』
愚直なまでの吉村の生き方に触れ、錦の御旗に弓を引いた大野もまた、そのお役目に忠実であった。がしかし、政権交代の原因は自分の身を守ることのみに専念し、百姓、領民、足軽郎党の苦しみに添えなかったからだとの過ちに気づき,認めた大野次郎右衛門もまた男であった。
Oh〜っと胸の震えを覚えた作品だった。

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