番犬は庭を守る

岩井俊二氏の作品はこれが初めてである。彼の持つ世界観、メッセージが皮肉さの中にしっかりと込められている作品だと思う。
架空の国(近未来の原発を抱える国と言えよう)では、メルトダウンを起こした原発が置き捨てられ、土地も人間も汚染され、住人たちの生殖能力も著しく低下していく。その中で高い生殖能力を持つ人間は「種馬」と呼ばれ、優良精子保持者は精子バンクに高額で提供し富を得ることができる。さらに金持ちはブタに自分の内蔵DNAを育てさせ、内蔵移植を行うという、生命力による格差社会が生じていく中で、主人公のウマソーは生殖器が発達しない「小便小僧」と呼ばれる者でありながらも、精一杯生きていこうとする。
冒頭、「鯨はかつて世界の燃料だった。遠い昔、人類が…」という書き出しで、この本の物語は始まる。今は鯨が燃料ではない時代。科学技術の進歩に私たちは喜び、便利さを奨励し、違和感なく受け日々を選択し歩んでいる。一旦その便利さに不具合が生じれば私たちはいとも簡単に転じて非難する。私はどう? あなたはどう?
しかし、ウマソーはそんな暗澹たる時代に生きながらも未来への希望を持ち続け、自分の出来る限りの力を尽くし明日へと紡ぎ、繋いでいく。
私たちも原子力を選んだ結果が目の前にある。今更に過去を非難しても何も生まれはしないだろう。私たちは今を受け止め未来へと繋げていけるだろうか。いや、諦めてはけない、責任を持って繋げていかねばならないだろう...それぞれの立場で。

0