
1990年にSOLID RECORDS(ソリッドレコード:現
ULTRA-VYBE)から突然発売されたポータブル・ロックのCDです。さすがインディーズの鑑、ソリッドレコード!
録音はムーンライダーズの鈴木慶一さん宅にある湾岸スタジオで1983年に行われました。レコーディングにはフォステクスA8という8トラックMTRが使われました。僕もこのレコーダーを愛用していたので嬉しかったです。
ポータブル・ロックは、後にピチカート・ファイヴのヴォーカリストとして有名になる野宮真貴ちゃん、戸川純のヤプーズでも活躍したベースの中原信雄さん、81/2でギターを弾いていた鈴木智文さんの3人のユニットです。
僕はポータブル・ロックの大ファンで、東京のライヴにはおそらく全部行ったと思います。このアルバムには後にメジャー盤に収録された「グリーンブックス」「ゴーレムポルカ」「クリケット」の初期ヴァージョンや未発表曲、それに「アイドル」の別アレンジも収録されています。
このアルバムをひとことで言うと「可愛いテクノポップ」という感じです。録音は1983年で、リズムマシンも3曲ほどオーバーハイムのDMXを使用している他は、ローランドTR-808のアナログ中心で、曲によって鈴木さえ子さんがスネアやシンバルをダビングしています。
しかし、何という魅力的な音なのでしょうか。僕はこのアルバムを聴いて非常に感激しました。このジャケットの絵のように、純粋で、涼風が吹き抜けるような音楽です。コード進行や構成は凝っていますし、シンセ類も多く使われていて、テンションコードも多いのに、とてもシンプルに聴こえます。エフェクトがかけてある音ばかりなのに、アコースティックな肌触りが感じられる不思議な音です。
このアルバムはデモ・テープをCD化したものです。「正式にリリースしたテイクよりもデモ・テープの方が良かった」という事を話すミュージシャンは沢山います。実際に完成度は低くても魅力に溢れたデモ・テープは多く存在し、わざわざデモ・テープを正式にリリースするミュージシャンも世界中にいるほどです。このアルバムもそんなデモ・テープの魅力が詰まった1枚です。
野宮真貴ちゃんの歌も、後のピチカート・ファイヴの歌い方とは全然違い、中性的で不思議な歌声です。この歌声もこのアルバムの大きな魅力です。
このアルバムが発売される時に、ポータブル・ロックによる発売記念ライヴがあったので、僕も行きました。ゲストにサエキけんぞうさん&かとうけんそうさんの「インド大話術団」、戸川純ちゃん、鈴木慶一さんと鈴木博文さんも出演しました。慶一さんと博文さんは変な格好をしてマジックか何かでドロボウみたいなヒゲを描いて出てきました。
面白かったのがこのアルバムのレコーディングのエピソードで、野宮真貴ちゃんが「歌入れをしていると、慶一さんがエロ本のヌード写真を歌っている目の前で広げて見せるので困りました」という話をしていました。それから野宮真貴ちゃんのソロアルバム「ピンクの心」に収録されている「原爆ロック」のデモ・テープでは戸川純ちゃんが歌っていたそうです(これじゃそのまんまゲルニカですね)。
ポータブル・ロックの今後の活動を聞かれて、野宮真貴ちゃんが「デモ・テープを作ったりしています」と答えていたので「おお!ニューアルバムが出るのか!」と僕は大喜びしたのですが、野宮真貴ちゃんがピチカート・ファイヴの3代目ヴォーカリストになり、そちらの活動がメインになりましたのでポータブル・ロックのニューアルバムは消滅してしまいました(というか、この時のライヴ自体が再結成という感じでしたが)。
野宮真貴ちゃんはピチカート・ファイヴで有名になりましたが、僕はポータブル・ロックのライヴでギターを弾いたり、THE WHOの「キッズ・アー・オールライト」を歌ったりする野宮真貴ちゃんが忘れられません。何年かに1度ぐらいでもいいので、ポータブル・ロックやってくれないかなあ。
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↓以前書いたポータブル・ロック関係の文章です
「
QT+1/ポータブル・ロック」
「
陽気な若き水族館員たち/オムニバス」
「
ピンクの心/野宮真貴」