ポールの「McCARTNEY II スーパーデラックス・エディション」が届きました。
CD3枚+DVDの4枚組に、豪華写真集が付いています。
このアルバムは、ファンには評判が悪かったのですけど、僕は大好きです。
僕も1人でギターやベース、シンセやドラムなどを多重録音しておりましたので、ポールが1人で様々な楽器を演奏して作ったこのアルバムには、多重録音をしている人にしかわからないと思われる楽しみ方もたくさんあります。
Disc2と3に収録されている未発表曲や未発表テイクのほとんどは、僕はブート盤で聴いておりましたが、正規盤として発表された事で、音質も飛躍的に良くなり、また重箱の隅をつつくように聴いております。
今回、僕が大喜びしたのは、録音したポールの自宅スタジオの写真がたくさん載っていた事です。
これにより、使用機材もハッキリと特定できまして、謎だった部分もかなり解りました。
というわけで、楽器やレコーディングの面からレビューしてみます。
ポールの自宅スタジオにセットしてあるシンセサイザーやキーボードは、YAMAHA CS80、ROLAND Jupiter 4、メロトロン、mini moogなどなど。
特にローランドのJupiter 4の写真にはビックリ!
このシンセ、僕も愛用しておりました。
この写真で解ったのは「シークレット・フレンド」でイントロからずっと聴こえる打ち込みのようなシーケンス音は、ローランドのジュピター4のオートアルペジオだろうという事です(僕もジュピター4を愛用しておりましたので、これで間違いないと思います)。そこにピッチベンドを加えたりしています。
ギター類では、フェンダーの左用ストラトキャスターがチラッと写っております。このアルバムで使用されているエレクトリック・ギターは、音色からして、ほとんどがテレキャスターだと思いますが、どこかでストラトも使われているのかもしれません。今後、見つける楽しみが増えました。
ベースは、当時愛用のリッケンバッカー、左用のフェンダー・ジャズ・ベース、それにヤマハのBBが写っています。BBは「ボギー・ミュージック」で使われていると思います(ラウンド・ワウンド弦の音がしていますが、ポールはBBにラウンド弦を張っておりました)。
他に、トイレにバスタムとマイクがセットされている写真も載っておりますが、これもおそらく「ボギー・ミュージック」の印象的なバスタムの録音の時の写真だと思います。あのバムタムの残響音は、ポールの自宅のトイレのエコーだったのですね。
エコーマシンは、Roland RE-201が写っています。「オン・ザ・ウェイ」「チェック・マイ・マシーン」「ボギー・ミュージック」のフィードバックが大量にかかっているディレイは、Roland RE-201によるテープ・エコーと判明しました。
リズムマシンは、コンピュリズムのRoland CR-78が写っています(21ページに「Roland Echo」と書いてありますが、これはテープエコーではなく、リズムマシンの「CR-78」です。きっと間違ったのでしょう)。
「ワンダフル・クリスマス・タイム」の印象的なシンセ音は、YAMAHA CS80に、Roland RE-201でディレイをかけた音でしょう(YAMAHA CS80はウイングス「ロンドン・タウン」のレコーディングでも使われておりますし「幸せの予感」や「カミング・アップ」のプロモフィルムでもCS80を弾いておりますので、おそらくCS80だろうと予想はしておりました)。
ドラムセットがまた面白いというか、不思議なセットです。
パールのバスドラムに、グレッチのタム、スネアがラディックという全然バラバラのメーカーで組み合わせてあるのです。
そして、明らかにレコーディングで使われているのに、写っていない楽器も色々あります。まず「ワン・オブ・ジーズ・デイズ」では音色からしてオベイションのアコースティック・ギターが使われておりますが、ここには写っておりません(「テンポラリー・セクレタリー」のトラックシートにも、ポールの字で「OVATION」との記述があります)。
フェンダー・テレキャスターも写っておりません(「カミング・アップ」のビデオでは弾いています)。
「ウォーター・フォールズ」でメイン楽器として使われている、フェンダーのローズ・ピアノもありません。
トラックシート(マルチ・テープのどのトラックに、どの楽器を録音したのかを記録する紙)の写真もありまして、それを見ると「ウォーター・フォールズ」は、最初は別な曲名が付いていた事もわかります。トラックシートには「I NEED LOVE」と書いてありますので、こちらがきっと元の曲名だったのでしょうね。
トラックシートを見て、興味深いのは、どのトラックにどの音が入っているのかという法則や約束事が全くなく、ポールが気の向くまま、自由に好きな楽器をダビングしていった事がよくわかります。
そしてトラックシートを見て思ったのが、1トラックから順番にダビングされて行った曲が多いのではないかという事です(「シークレット・フレンド」「ワンダフル・クリスマス・タイム」は例外で、どちらも他のトラックにシーケンサーを録った後、1トラックから順番にダビングして行ったのではないかと想像しております)。
1トラックにリズムボックスが入っている曲(テンポを決定するため1番最初に録られます)も複数ありますし、「ウォーター・フォールズ」や「ワン・オブ・ジーズ・デイズ」は1トラック目から録音した事は間違いありません(それぞれメインとなるローズピアノとオベイションが1トラックに入っています)。
わずかな例外があるにしても、そう考えると、ポールがそれぞれの曲を、どんな順番でオーヴァーダビングして行ったのか、という手がかりになり、トラックシートを見ながら曲を聴くのが、僕には楽しくて楽しくて、しょうがありません。
ノイマンのコンデンサーマイク、シュアーの58などの写真もありますが、面白いのは、ポールの自宅スタジオには、やたらとギターアンプやベースアンプが置いてある事です。ビートルズの映画「レット・イット・ビー」でも使われた、フェンダーのベースマンもあります。
いやあ、写真やトラックシートを見ながら聴くのが、本当に楽しいです。
これからも解析しつつ、このアルバムを楽しみたいと思います。