小学6先生のある日、友達が「おい、こんな物を見つけたぞ」と1冊の分厚いノートを持って来ました。
なんだなんだ?と3〜4人が集まり、その可愛いノートを開いてみると、それはなんとクラスのWさんとHさんの交換日記だったのです。
そこにはそれぞれ好きな人の名前が書いてあり「○月○日 今日はS君がどうでこうで…」と、思いを綴ってありました。
僕らがウヒャヒャヒャと面白がりながらそれを読んでいると、1人が「おい、Wさんは強いぞ。もしバレたらみんなブン殴られるぞ」と心配をし出しました。
Wさんは勉強もできて正義感も強く、体格もガッシリしていて、腕力も強いので、男子をよくブッ飛ばしていました。小学6年生になると、男子よりも女子の方がずっと大人で、男なんてまだガキです。女子はそんなWさんを慕い、女子たちを守る正義の味方のような存在でした。
「返さないとヤバイよ、Wにブッ殺されるよ」とビビる中、僕が「まあまあ落ち着け、ちょっとノート貸せ」と言い、エンピツで新しいページに文章を書きました。
「○月○日 KENNY子 今日は理科室の前で、大好きな高木ブーさんを見かけちゃった!キャー!ラッキー!」というように、真似して書いてみたのです。
友達は僕の書くパロディ文章を見て、腹を抱えて笑いました。
書き終えた後で、元の場所に交換日記をそっと返し、僕らは帰宅しました。
僕が帰宅してしばらくすると、電話がかかってきました。「Wさんて人から」と受話器を渡され、出てみると「テメーこの野郎!見やがったな!ブッ殺すぞこの野郎!」というWさんの声が聞こえてきました。
でも怒りは半分で、あとの半分は、好きな人がバレてしまった少女の恥じらいがあるように思いました。それが僕には意外でしたが、あ、やっぱりWさんも女の子なんだ、と心のどこかで感じたのです。
電話にはWさんとHさんが交代しながら出て「お前!絶対S君には言うなよ!言ったらブッ殺すぞ!誰にも話すなよ!」と念を押されました。僕は「わかったわかった。わりいわりい」と言うしかありませんでした。
電話は、きっちり3分後に「テメーコノヤロー!明日学校でブッ飛ば…プツン、ツーッツーッ」と切れました(公衆電話が3分10円だった時代です)。
次の日学校に行くと、Wさんが来ていたので「昨日途中で電話切れたね」と言ったら、少し頬を染めながら「ちくしょう、公衆電話からだから3分で切れやがった」と言いました。
この話はそれでオシマイで、僕はWさんにブッ飛ばされる事もなく、僕もすぐにそんな事は忘れ、また1日が始まりました。
ガキだったとはいえ、僕も面白半分にひどい事をしたものです。Wさん、Hさん、すみませんでした。
ところで後日談ですが、僕が通った中学は、WさんともHさんとも別の学校でした。
中学3年生の時に、隣の学校のU君と知り合い、バンドで一緒に演奏するようになりました(今でもU君とは親友です)。
その中学生のある日、U君が「俺の学校にメチャクチャ気が強いオンナがいてさあ、あいつすぐ男子をブン殴るんだよなあ」という話をしていて、これはもしや…と思い「それってWさんって名前じゃない?」と聞くと「うん、そうだよ。なんで知ってるの?」と言うではありませんか。
僕らはWさんには一生かなわないのです。