
昨日の続きですが、今日は内容について書きます。
このアルバムは以前にもCD化され、その時も買ったのですが、どこかに無くしてしまいました(まだあると思いますが)。僕は過去の自分の作品に対するこだわりが全くないので、無くしても気にしない悪いクセがあります。しばらく聴いていなかったので、今回の再発は改めてとても良い記念になりました(今度は無くさないように気を付けます)。
実に10数年ぶりに聴いてみたのですが、第一印象は「音質が悪いなあ…」でした。所々、音がかすれたりしている箇所もあります。これは仕方がありません。録音機材は現在に比べて実にお粗末でした。鈴木慶一さん宅のスタジオで録音された曲以外はほとんどがカセットテープを使った機材で録音されていますので、現在の耳で聴けばそれはしょうがない事です。20年前のアマチュアの自宅録音ではこの音質が限界でした。
僕の曲もカセット4トラックのティアック244で録音した曲がそのままCD化されています。僕の使用機材はドラムマシンがジャグボックスDPM-48、ベースがローランドMC-202、ブラスがヤマハDX-7、ヴォイスのサンプリングがBOSSのサンプラー/ディレイです。まだMIDIシーケンサーを持っていなかったのでDX-7は手弾きで、サンプラーはトリガーで鳴らしました。ミキシングは鈴木慶一さん宅の湾岸スタジオです。ギターやベースは弾きませんでした。
そんなわけで全体的に音質は決して良くはありませんが、今聴いても何とも強烈な個性の曲やサウンドばかりだなあと改めて感心いたしました。ショボイ機材にも関わらず、よくもまあ参加者はこんなに複雑で魅力的な音を出したものです。
ドラムマシンも非常に高価で数機種しか選択肢がなく、シンセサイザー類も今のように万能ではなく、多くのパートの演奏を打ち込みたくても高価な機材が買えないアマチュアにはほとんど無理な時代でした。
しかしその少ない機材という不利な要素をアイディアと若い勢いでぶち破ろうとする意気込みがあります。どれもこれも、一般的なポップスとは対極にある作品です。しかし不思議なポップさがあります。内輪褒めになるかもしれませんが、20年前の自宅録音作品と考えると相当スゴイと思います。
今では安価で高性能な機材も選択に迷うほど多くあり、自宅でCDに迫る音質で自由自在にレコーディング出来る夢のような時代になりましたので、きっと若い世代がこのアルバムを聴いても特に何とも思わないかもしれません。
しかし素朴で制限の多い機材を操りながら、様々な工夫とアイディアで音楽を作り上げるアマチュア・ミュージシャンの夢に溢れるワクワク感がギッシリ詰まったアルバムだと言えます。
当時このアルバムの参加者は、熱に浮かれたように多くのオリジナル曲をどんどん仕上げていました。当時の自宅録音というのはもの凄いエネルギーと情熱が必要でした。次々と届けられる彼らの新曲を聴くのが本当に楽しみでした。新曲を聴くたびに「スゲー奴らだなあ」と興奮したのを憶えています。
誰でもインターネットで自分の曲を配信出来る環境が整った現在では、もうこのアルバムのような企画も古いでしょうし、大手のレコード会社が手がける物でもないでしょう。あの時代だったからこその斬新さだったのですね。
オマケの裏話ですが、このアルバムは関東地方の参加者による「裏ビックリ水族館」が存在します。1本のカセットテープに自分たちの最新曲や発売から漏れた曲を録音し、次の人に郵送して最終的にアルバムとして完成させました。次の人に送る際には、自分の作品のコメントなどを1枚の紙に自由に書き、一緒に送りました。
このカセットはもちろん一般的には未発表で、参加者だけが聴けるプライベートな作品集です。参加者の間からは「こっちの方が面白い」という評判もあるほどでしたが、これからも発表される事はないでしょう。
このアルバムの参加者の多くが20年経った今でも音楽を続けている事を考えると、やはりプロデューサーの鈴木慶一さんの耳と勘はズバ抜けていたんだなあと思います。
新たに再発売された良い機会なので、20年前を振り返り時代背景を含めた思い出や改めて感じた事を自分なりにまとめて語ってみました。次にこのアルバムについて語るのは、また20年後にSACDやDVD AUDIOのようなCDに替わる新しいフォーマットで再発売された時にいたします。それまでごきげんよう。長文にお付き合いいただきありがとうございました。