「橋本利生!21歳!S大3年!利口に生きると書いて”りき”!明日香ちゃんの為に一気します!」
利生は、居酒屋の座敷でピッチャーを持って立ち上がった。
「フォー!」
合コンは一気に盛り上がった。
「明日香ちゃん、これがうまくいったら、今日は俺に送らせて下さいっ!」
利生が明日香に視線を送った。明日香が、恥ずかしそうに微笑んだ。
「利生くんかっこいいー」
合コン仲間の智史が、大きな声で叫んだ。
座敷は、利生達の合コン集団で、無法地帯と化し、盛り上がりはピークだった。
一気コールが、居酒屋中に響き渡った。
今日は、この後、明日香ちゃんちか、ラブホに直行だー
利生は、そう思うと同時に、ピッチャーを口に運んだ。
一気コールは更に大きくなり、居酒屋の店員たちも利生に注目していた。
そしてついに、利生はピッチャーのビールをすべて飲み干した。
「フォー!!」
座敷が拍手で包まれた。
「明日香ちゃん、二人でどっか行きませんか!?」
利生が、明日香の手を取って正座した。明日香が、嬉しそうに笑っていた。
「行きません!」
利生の背後から、女の低い声が聞こえた。聞き覚えのあるその声に、利生は、恐る恐る振り返った。
座敷の入り口に、沙希が立っていた。
「利生、今日は、バイトの飲み会だって言いましたよね?」
沙希が、そう言いながら、利生の髪を強く掴んだ。
「いててててて・・・・」
利生が沙希の手を、自分の頭から、なんとか取ろうとしていた。
座敷中が、さっきの盛り上がりを、忘れるほど静かになった。
「痛ててじゃねぇ!この猿!!もう我慢できない!私と付き合って1年間で、何回浮気してると思ってんの!?」
沙希がそう言って、利生の頭を放した。
「沙希、帰ってゆっくり話そう」
利生がそう言うと同時に、沙希が利生の頬を平手打ちした。
「明日、うちにあるあんたの荷物、全部持っていって!あるだけで気持ち悪いから!」
沙希は、そう言うと早足で去って行った。
「いってぇ」
利生は左頬を押さえてつっ立っていた。突然、明日香が立ち上がり、利生の目の前に立った。
「明日香ちゃ・・」
利生は、そう言うと同時に、明日香に右頬を殴られた。
今夜は、天国から地獄に急降下した気分だ・・・
居酒屋から出て、そのすぐ近くにある智史の家に行った。赤く腫れた両頬を冷やしたかったし、10分も経たないうちに、みんなの前で、二人の女に殴られた最悪な気分を、飲み直して晴らしたかった。
「あはははは・・・もう、腹いてぇよー」
智史が大きな声で笑いながら、焼酎をグラスに注いだ。
「笑い事じゃねぇよ」
利生が、氷で両頬を冷やしていた。
「もっと、利口に生きたら?名前の通り」
そう言って、智史が利生にグラスを渡した。
「なぁ、今日、このままお前んち泊まっていい?」
利生が、焼酎に水を注いだ。
「いいけどさ、明日沙希ちゃんちに荷物引き上げに行くのは、付き合わねぇよ」
智史がTVを見ながら言った。
「えー、ドライブしようよー、智史くーん」
利生が、智史に抱きついた。
「だめだめ、明日から、後期授業だもん、初日は真面目にノート取るのが俺のポリシーなの。だいたい、そんなに荷物ないべ?一緒に住んでた訳じゃないんだし」
智史が、冷たい感じで言った。
「ノートは、真美に頼んどくからさー、真美、俺の言う事何でも聞いてくれるから大丈夫だよー、なぁ、頼むよー」
利生が、両手を合わせた。
「真美ちゃんってさー、お前と沙希ちゃんが付き合ってる事、知らないんだっけ?」
智史が言った。
「知るわけないじゃん!言わないよ、そんな事」
利生が目を丸くして言った。
「あーあー、可愛そうだな、真美ちゃんって純粋そうなのになぁ。なんでお前みたいなやつに騙されるかなぁ?」
智史が、呆れた様に言った。
「お前、いつか、本当に痛い目に合うわ」
智史は続けざまにそう言い、笑った。
痛い目?そんなの平気だよ。
ばれたら、また新しい女探せばいい。
女なんていっぱいいるんだから・・・
「頭いてぇー」
利生は、二日酔いの頭を抱えて、沙希の家に向かっていた。智史は、結局車を出してくれなかった。9月末だというのに、外は30℃を超えており、利生は息を切らして、駅から少し離れた住宅街の坂道を歩いていた。
浮気ばれても、許してくれてたのは、沙希だけだったなぁ。
金も貸してくれたし、言う事なかったのになぁ。
そんな事を、考えながら、利生が、沙希のマンションの前で立ち止まった。マンションのごみ置き場の前に、見覚えのあるTシャツが捨ててあった。
「ん!?」
近くまで行って、利生は、そのTシャツを覗き込んだ。
「俺のじゃね!?」
利生は、目を丸くして大きな声でそう言うと、Tシャツを拾ってゴミを掃っていた。
よく見ると、沙希の家にあったはずの、利生の洋服が、すべてゴミ置き場に投げ捨てられていた。
「わぁ、これ高かったのに!なんだよあいつー、ちくしょー、最悪だー」
利生はそう独り言を言って、あたりの洋服をかき集めていた。
「ちょっと!!」
背中を丸めて、洋服を拾い集める利生の後ろから、女の声がした。利生が背中を丸めたまま振り返った。そこにはスタイルのいい女が、腕を組んで立っていた。髪はVピンで一つにまとめられ、だぼっとしたTシャツに短パンを履いていて、ふちのない眼鏡をかけていた。手には、ブランド物の高そうな財布を握っていた。
めっちゃ美人!!
年は俺より少し上くらいかなぁ?
利生は女を見上げて、そんな事を考えながら、口をあんぐりと開けていた。
「ここに書いてあるでしょ?指定日以外は出さないでよ!あんたのとこのマンションの人達、いつでもゴミ出すから、うちのマンションの廊下にゴキブリが出るの!!」
女が頬を膨らまして、腕を組んだまま言った。
「あの・・・俺、捨ててるんじゃなくて、拾ってるんですよ」
利生が、服を抱えて立ち上がった。
「え?」
女が、組んでいた腕を放した。
「あ、なんかごめんなさい・・・勘違いだったみたいね」
女は右手を口に当てて、申し訳なさそうに言った。
「いいですよ。どう考えても俺の行動、変ですからね」
利生が、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そうだねー、でも、なんで服なんか拾ってるの?ネットカフェ難民?」
女が笑った。
「違いますよー、俺、大学生だし、ちゃんとバイトしてますよー」
利生が笑った。
「いや、実は、ここのマンションに彼女が住んでて、俺、昨日、彼女の浮気現場見つけて、おもいっきり別れてやったんですけど、今日、荷物取りに来たら、俺の服がここに捨てられてて・・・酷くないですか?」
利生が苦笑いした。
「えー!それは、被害者だね」
女が目を丸くした。
「お姉さんは、そのマンション?」
利生が、沙希のマンションの隣のマンションを指差した。
てか、でけぇ・・・
超高級マンションじゃね?もしかして億ションってやつ?
そう言えば、沙希が言ってたな・・・
『うちの隣のマンションは、金持ちしか住んでない』って・・・
「そうなの、まだ、住み出して二ヶ月くらいなの」
女が言った。
「お姉さん、今日休みでしょ?」
利生が、女を覗き込んで、言った。
「どうしてわかるの?」
女が、不思議そうに言った。
「だって、ラフな格好で、財布一つ持ってどこか行こうとしてるんだもん、しかも、昼過ぎでしょ?コンビニかどっか行く途中だったんですか?」
利生が服をまとめて、肩に掛けながら言った。
「あはは・・・確かにバレバレかも」
女が笑った。
「コンビ二でなく、俺と一緒に昼飯どうですか?」
利生がニコニコした。
「・・・んー」
女が、首に手を当てて、しばらく考えていた。
「いいよっ・・・勘違いしちゃったし、お詫びに何がご馳走するよ」
女がニコっと笑った。
「え?ご馳走なんて悪いですよー」
利生が、心にもない事を言った。
「いいよ、学生さんなら、お金持ってないでしょ?着替えるから、待ってて、よかったら、うちに上がって待ってる?」
女は、そう言いながらマンションの入り口に向かった。
あはは・・・いい女ゲットだ!しかも、超いい女!金持ち!
やべぇ、久々にわくわくしてきた!
今日は、うまいもん食って、うまくいけば、この女も食えちゃうかもなぁ。
だはは・・・笑いが止まんねぇ。
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