今日も雲一つない晴天、夏休みだっつーのに、なんで俺は、バイトばっかしてるんかなぁ・・・
俊哉は、バイト先のペットショップの、前の道を掃き掃除しながら空を見上げた。
こうして毎日、バイトに行って、帰りにコンビニで弁当を買い、家に帰って、TVを見ながら寝る。時には帰りに誰かに誘われて飲みに行ったり、祐樹と朝まで遊んだりする。
あぁ・・・
何か退屈だぁ
あの夜の出来事が、嘘みたいに感じる。
気になる女に出会って、その日のうちに振られた。
その理由が、女の子が好きだから?
笑えるよ、マジで・・・
「俊くん、ワンちゃん抱っこさせてよー」
亜美が、店内から出て来た。
「抱っこできるのは、お買い上げ頂く場合だけです。てか、お前帰れ、何しに来たんだまったく・・・」
俊哉が、素っ気無く言い、店内に入った。
「さっき、買わないお客さんも抱っこしてましたよーだ!」
亜美が、俊哉の後を追いながら言った。
「お前ってなんでそんなガキくせぇの?俺ら今年21、分かる?はぁー、なんかお前ってやっぱ疲れるわ」
俊哉がそう言いながら、レジカウンターの中に入り、伝票の整理をしていた。
亜美は、カウンターの前で、俊哉の手元をじっと見ていた。
客は一人もいなく、犬の鳴き声と、店内に流れる音楽だけが響いていた。
「俊くん、なんでそんなに冷たいの?」
亜美が下を向いたまま言った。
「じゃぁ、俺も質問、なんでお前はここにいるんですか?」
俊哉が伝票整理の手を止めずに、呆れたように言った。
「・・・もういいよ!私帰る!」
亜美がカウンターをバンっと叩いて、店を出て行った。
はぁー、まったく・・・
この夏休みは最悪だ・・・
『バタン・・・』
コンビニの袋をぶら下げて、俊哉は部屋に入った。お気に入りの洋楽をかけて、TVを付け、タバコに火をつけた。ついでに、御香にも火をつけた。
俊哉は、なんとなく寂しくなった時や嫌な事があった時、御香に火をつける。甘い香りを嗅いでいると、リラックスした気分になる。
音楽をかけているせいで、音声が全く聞こえないTVを見ながら、無言で弁当を食べていた。
「きったねぇな・・・掃除しなきゃ」
部屋を見渡して、俊哉は独り言を言った。
脱ぎ捨てた服が散らばり、ゴミ箱は、コンビニ弁当のカスで山盛りになっていた。
俊哉は、近くにあった服を、何枚か洗濯機に入れた。それでもまだ、服が沢山散らばっていた。
「はぁー、めんどくせっ・・・明日でいいや・・・」
俊哉はベットに寝転んだ。
翌朝、俊哉は電話の呼び出し音で目が覚めた。寝ぼけて、目を閉じたまま電話を耳に当てた。
「もしもし、俊哉君?」
え?
俊哉は、がばっと起き上がった。
耳に麻里の泣き声と息遣いが聞こえる。
女が泣き出すと、面倒くさいだけ
面倒くさいのは、もう沢山のはずなのに
全然そう感じない
むしろ、今すぐ彼女の所に行ってなぐさめてあげたい
そう、ぎゅっと彼女を抱きしめて・・・
俊哉は背中に感じる麻里の温もりを感じながら、ビックスクーターを走らせた。
密着してみると、麻里の体は意外に小さかった事に気付いた。
背中の、真ん中あたりに麻里の頬が当たっているのが分かった。
会った時、麻里が泣いている理由を言ったら、何も言わずに抱きしめると決めていた。
でも、麻里を目の前にしたらできなくなった。女の子の前で緊張するなんて、久々だった。
二回目に会った女の子を、自分の家に連れて行く
しかも、失恋したばかりの子・・・
なんか俺って、すっげぇ不謹慎だ
だけど、不謹慎っていう感じが、わくわくするのはなんでだろう?
麻里ちゃんといると、俺は違う自分になった気がする
後ろに、麻里ちゃんが乗ってるだけで、ドキドキする
やっぱり、麻里ちゃんって不思議な子だ
「ちょっと待ってて」
俊哉は玄関の前で、麻里を待たせた。
部屋に上がって、大急ぎで散らばった洋服とをまとめて洗濯機に入れ、ゴミ箱にあったゴミを、ベランダにある大きなゴミ入れに入れた。
「どうぞ・・・」
俊哉が、ドアを開けると、麻里は小さな声で
「お邪魔します」
と言い、部屋を見渡すと、
「シャワー借りてもいい?」
と言った。
俊哉は音楽をかけ、麻里の着替えを用意した。
やばい、すごく緊張してきたぞ
あぁ・・・
ドキドキが止まんねぇ
童貞の中学生になった気分だ
ガラステーブルの前に座り、タバコを何本も吸っていた。
麻里は、シャワーから出ると、俊哉の膝に頭を置いて寝転んだ。
Tシャツから、白い足が無防備に露出されている。
麻里ちゃんが弱っている事につけこんで、Tシャツの中に手を入れて、麻里ちゃんを抱く事は容易い事なのかもしれない。
だけど、そんな事はしたくない。
麻里ちゃんを傷つけたくない。
俊哉は、タバコを咥えて、麻里の頭を撫でた。
麻里は気持ち良さそうに、目を閉じた。
俊哉は、麻里の頭を膝に乗せたまま、横になって眠った。
夕方になって、俊哉は置手紙とすやすや眠る麻里を置いて、バイトに向かった。
バイトが終わったら、麻里ちゃんを、どこか美味しいものを食べに連れ出そう。
飯を食って、麻里ちゃんの気分がよければ、飲みか、カラオケに連れて行こう。
俊哉は、バイトの最中、そんなことばかり考えていた。
バイトが終わって、携帯を見ると、麻里からメールが入っていた。
『カギ、ポストに入れとくねo
今日ゎありがとぅ♪
今度なんかおごるね^^』
なんだ・・・
俺、何うかれてたんだろ?
かっこわりぃ・・・
「祐樹?飲み行かね?」
バイト先を出ると、俊哉は、祐樹に電話した。
「わりぃ・・・今、仁美ちゃんと一緒なんだ。また今度行こうぜ」
祐樹が、申し訳なさそうに言った。
「そっかぁ・・・じゃぁ、またな・・・」
俊哉は電話を切ると、いつも寄るコンビニで、弁当に加えて、缶ビールを買って家に帰った。
いつも通り、家について、音楽をかけて、TVをつけ、タバコに火をつけた。
そして、御香を二本焚いた。
ビールを一口のみ、タバコを消して、コンビニ弁当を食べ始めた。
なんか俺、おっさんみてぇ・・・
ビールに、コンビニ弁当ってか
俺って寂しい奴
やっぱこの夏休みは、最悪だ・・・
「俊哉ー。ワンちゃんの、餌やってー、あ、後、新聞も変えてやってー」
店長が、大きな声で言った。
「あーい」
翌日、俊哉はいつも通り、バイトをしていた。
いつも通りの作業をしながら、ふと、考えた。
麻里ちゃん、昨日、どこ行ったんだろ?
行く所ないって、電話する子さえいないって、言ってたのに・・・
麻里ちゃん、今、どこで、何してるんだろ?
あぁ・・・
二回しか会った事ないのに、なんでこんなに、麻里ちゃんの事ばっか・・・
俺の頭、どうかしちゃったんじゃねぇか?
「俊哉?聞こえた?」
店長が、大きな声で言った。
「え?」
俊哉が、振り返ると、店長が俊哉を覗き込んでいた。
「ちょっと、銀行行ってくるから、よろしくね。大丈夫?夏バテ?」
店長が、更に大きな声で言った。
「あ、大丈夫っす、いってらっしゃい」
俊哉が言った。
店長が、出て行くと入れ替わりに、お客さんが入って来た気配がした。
「いらっしゃいませぇー」
俊哉が、そう言いながら、餌をやっていた犬のゲージを閉め、入り口に向かった。
入り口の、自動扉の前に、麻里が立っていた。
「こんにちは」
麻里が、にこっと笑った。
「麻里ちゃん・・・」
俊哉が、驚いた顔で迎えた。
「俊哉君、いなかったらどうしようかと思ったけど、来てみてよかった」
麻里が、そう言いながら、店内を見渡した。
麻里は、ニコニコしていた。ちゃんとした笑顔を見たのは初めてだった。
可愛いなぁ・・・
笑った方が、可愛い
とか、俊哉は考えていた。
「犬、抱っこしてみる?どの子がいい?」
俊哉が沢山のゲージを指差した。
「え?いいの?・・・じゃぁ、この子」
麻里が、嬉しそうに言った。
「うん、いいよ」
俊哉が、犬を渡すと、麻里は笑顔で犬の頭を撫でたり、手を触ったりしていた。
「ありがとう、可愛いね」
麻里が犬を、俊哉に渡した。
「うっす・・」
俊哉が、犬をゲージに入れていると
「俊哉君、今日、バイト何時まで?」
と、麻里が言った。
時計を見ると、夕方5時だった。
「後、二時間くらい、待っててくれるなら、飯でも行く?」
俊哉が言った。
「うん、行く。・・・あのさ、今日、泊めてくれないかな?図々しい事言ってるのは分かってるの。ただ、本当に困ってて・・・」
麻里が、申し訳なさそうに言った。
「いいよ。今日だけじゃなく、ずっといてもいいよ」
俊哉が笑って言った。
「あはは・・・そんな図々しい事できないよー」
麻里が笑った。
冗談っぽく言ったけど
半分は、本気なんだ。
『ずっと』って、どのくらいの事言うのか、分からないけど
麻里ちゃんと、出来るだけ一緒いて
俺の知らない麻里ちゃんを、もっと知りたいんだ
「美味しいね」
麻里が、パスタを頬張っていた。
さっき会ったときより、もっと麻里ちゃんが綺麗に見えるのは、イタリアンレストランの間接照明のせいだろうか。
「でしょー、ここは、いいと想ってる子しか連れて来ないんだ」
俊哉が、パンをちぎりながら言った。
なんて・・・
少し、アピールしたりしてる俺
「はは・・・俊哉君って嘘つきだね」
麻里が、口を拭きながら笑った。
嘘じゃないよ・・・
麻里ちゃん、よく考えてごらんよ
何とも想ってないなら
こんな風に、飯につれてきたり
家に泊めたりしないよ
それとも分かってるの?
分かってて、気付いてないふりしてるの?
あぁ・・・
だめだ・・・
俺、会う度、どんどん君に飲まれてく・・・
「麻里ちゃん、昨日はどこ泊まったの?行く所ないって言ってたから、少し心配したよ」
俊哉は、気になっていた事を、思い切って聞いてみた。
「あぁ、実家に帰ったの。お母さんが、『どうしたの』って詮索してきて、ごまかすの大変だった」
麻里が、指先で、ナフキンを繰り返し触りながら言った。
実家?
実家に帰ったのに、昨日と同じ服を着てるの?
実家なら、服の一着や二着、あってもおかしくないのに・・・
ひょっとして、麻里ちゃんは、嘘つきなのかもしれない
だとしたら
麻里ちゃんは、俗に言う、『悪い女』なのかもしれない
だけど、仮にそうだとしても
もう、遅い・・・
だって、俺は
この子が好きだ
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