テスト終わりに、大学の外のベンチに座って、ぼーっとするのが好きだ。
誰にも、邪魔されずに、勉強の事も考えずに、明日は何して遊ぼうとか、そんな何でも無い事を頭に浮かべて、売店のコーヒーを飲みながら、タバコを吸う。
この三年間、俺の大好きなこの時間を、決まって邪魔するのは、この男だ。
「あ゛ー!!、仁美ちゃーん!!」
祐樹が大きな声を上げながら、駆け寄り、俊哉に後ろから抱きついた。
「懐くなよ」
俊哉が、笑いながら祐樹の腕をはらった。
「あーあー、仁美ちゃんに彼氏がいなければなぁ」
祐樹が、ベンチの背もたれに座った。
「女なんて、沢山いるんだから、諦めろって」
俊哉が、タバコを灰皿に押し付けた。
「だめなの!仁美ちゃんは俺の天使だ!他の女は生ゴミだ!」
祐樹がベンチに立ち上がった。
「お前、そういう事言うからモテないんだよ」
俊哉が立ち上がった。
「あ!!それ言ったな!言ったな!一番気にしてるのに・・・ちょっとモテるからって・・・このー、このー、小悪魔!小悪魔俊哉!」
祐樹が、ベンチから、俊哉の背中に飛び移った。
「いてぇー、だから懐くなって・・・」
俊哉が祐樹を抱えて、二人は、じゃれ合っていた。
「俊くーん!」
亜美が息を切らして、追いかけて来た。
「ほら、小悪魔君、女の子登場」
祐樹が、ふざけた感じで言った。
「俊くん、一緒に帰ろう?」
亜美が笑顔で俊哉の方に、顔を傾けた。
「亜美、俺ら別れたんだよ?分かってる?」
俊哉が、呆れた感じで言った。
「そんな、3ヶ月も前の事忘れた」
亜美がすねた様に言った。
「お前なぁ・・・」
俊哉が、ため息をつきながら言った時だった。
「俊哉くーん」
女の子三人が、俊哉に近付いてきた。
「あー」
俊哉が女の子の方を見た。
「夏休み、時間があったら遊ばない?メールするねぇー」
女の子のうちの一人がそう言うと、三人はキャピキャピしながら去って行った。
「誰?」
亜美が、面白くなさそうに言った。
「小悪魔・・・」
祐樹がクスクスと笑った。
「小悪魔?何それ?」
亜美が、食いついた。
「心理の授業で一緒だったんだよ、他学科の子達」
俊哉が言った。
「何あれ、ブスじゃん」
亜美が口をとがらせて言った。
「あー、はいはい」
俊哉がそう言いながら、駅に足を進めた。
俊哉は、亜美のこういう所が嫌で、別れた。
いちいち、束縛されるし、詮索されるし、付き合っている時は、喧嘩が耐えなかった。
「亜美ちゃんとさ、別れてから、やってるの?」
祐樹が、ジュースをチューチューと吸いながら言った。
灼熱の太陽が照りつけるオフィス街が、良く見える喫茶店は、冷房が効きすぎて、少し寒かった。
「は!?お前何言ってんの!?やってねぇよ。遊んでもねぇし」
俊哉が、サンドイッチを噴出した。
「ふーん、お前、彼女つくんねぇの?」
祐樹がメニューを見ながら言った。
「んー、なんか、女って面倒くせぇんだよな。特に亜美はね」
俊哉が、口を拭きながら言った。
「まぁ、亜美ちゃんは、俺にまで、俊哉が何やってるのか、電話してきたからね。・・・ポテト食べようかなぁ」
祐樹がメニューを閉じた。
「苦い思い出ですよっ」
俊哉が言った。
「そう言えば、仁美ちゃん、彼氏と別れたんだってー、これってチャンスな訳?」
祐樹が嬉しそうに言った。
「嘘!?いつ?」
俊哉が言った。祐樹が、俊哉の質問に答えないで、急に喫茶店の反対側の窓際の席を凝視していた。
そして、何かを確信したように、急に立ち上がった。
「やっぱ、ポテトやめる!!俊哉!今日はクラブに行くぞ!!」
祐樹が、急に大きな声を出した。
「こんな所で天使ちゃんに会うなんて、神様がチャンスをくださったんだ!」
そう言うと、祐樹は、伝票を握って、歩き出した。
「は?何だよ急に!?まだ残ってるんだけど・・・あ、もう、待てって!」
俊哉は、残りのサンドイッチを一気に口に入れ、祐樹を追いかけた。
「あれ、仁美ちゃん」
祐樹が、さっき凝視していた女の子に話しかけていた。
『あれ』じゃねぇよ!この確信犯!
・・・ふーん
この子が、仁美ちゃんか・・・
俊哉はそんな事を考えていた。
祐樹が、長々と話す間、俊哉は、仁美の友達の方に目をやった。
その子は、楽しそうに話す仁美を見ては、自分の爪を触ったり、窓の外を見たり、退屈しているように見えた。
そして、一瞬、その子と目が合った。俊哉はニコっとして会釈した。しかし、その子は無表情に会釈すると、素っ気無く目を逸らした。
変な子だな・・・
全くキャピキャピしてない、『私、あなたになんか全く興味ないわ』って言われてるみたいに、変な気分になる
こんな子初めてだ
俊哉はそんな事を考えていた。
クラブで流れている、低音の強い音楽が好きだ。
内臓にまで、低音が響くこの感覚。この感覚が好きだ。
暗闇に、麻里ちゃんのブルーのワンピースが、やけに目につく。
昼間のカジュアルっぽい格好とは、雰囲気が全然違うな・・・
「麻里ちゃんって無口だね」
俊哉が言った。
「そう?」
麻里は、一言だけ言うと、口にグラスを傾けた。
「ほら」
俊哉が笑った。
「はは・・・本当だね」
麻里が、少し笑った。
あぁ・・・
なんか、変な気分だ
この子の雰囲気に飲まれそうだ
祐樹が飲み物を取りに立つと、麻里もトイレに立った。
「ねぇ、麻里ちゃんっていつも無口なの?」
俊哉が、仁美に言った。
「人見知りするとこあるかなぁ、でも、慣れれば沢山話すよ。仲良くしてあげて」
仁美が笑顔で言った。
慣れたら、どんな感じで話すんだろ?
あぁ・・・
初対面の女に、こんなに興味が湧くの初めてだ
「おまたせいたしました!!」
祐樹が、グラスを四つ持って戻ってきた。
「仁美ちゃんは、強いんだよねー?でも、俺にはきっと敵わないよ」
祐樹が、得意げに言った。
「本当!?じゃぁ、勝負ね。一気して、どっちが先に酔いつぶれるかね」
仁美が、笑顔で言った。
仁美が、十杯目のグラスを空けた所で、俊哉は、祐樹の様子が心配になった。
「祐樹、無理すんなよ」
完全に酔っ払っている祐樹に、俊哉が言った。
「全然、無理してないよー」
祐樹は、しゃべり方も、目線も変だった。
「何杯飲んだか言ってみろよ」
俊哉が言った。
「んー7?あ、8、いや、これでー9杯目!」
祐樹はそう言って、もう一杯一気飲みすると、床にしゃがみこんだ。
「仁美ちゃんの勝ちだね」
俊哉が笑った。
「やったー、あ、でもちょっと酔ったかも」
仁美が笑った。
「強いねー、ぶっ倒れた事ないの?」
俊哉が言った。
「彼氏と別れた時、一回だけね。あん時は飲んだなぁ・・・麻里がずっと付き合ってくれたんだ・・・朝までずっと一緒にいて、ずっと励ましてくれたんだぁ」
仁美が、笑顔で言った。
冷たそうにしてて、結構優しい所あるじゃん
あぁ・・・
ますます気になる
「てか、麻里ちゃん遅いね、俺見てくるわ」
俊哉は、そう言って席を立った。
カウンターの横で、グラスを傾ける麻里を見つけた。
麻里が、音楽に合わせて体を揺らすたび、ブルーのワンピースが、ひらひらと揺れていた。
同い年の女の子とは思えないほど、とてもセクシーに見えた。
例えば、あの子と恋に落ちたら
俺は、女を面倒くさいと思わなくなるのだろうか?
分からないけど、祐樹に感謝だな
ここで、キメたら
この夏休みは、楽しくなるかもしれない
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