「30分経ちましたので、提出したい人は、解答用紙を前に出して、静かに退出して下さい」
試験観察の先生がそう言うと同時に、麻里は席を立った。
「麻里ー、待ってー」
後ろから仁美が追いかけてきた。麻里は大学の長い廊下で立ち止まった。
「今のテスト余裕だったね、今日でテスト終わりじゃーん」
仁美が笑顔で言った。
「うん、仁美、今日はオールだよ?」
麻里が笑顔で言った。
「当たり前!もう勉強しなくていいんだもんね、家に帰ってー、メイクし直してー、おしゃれして出かけよう?」
仁美が笑顔で言った。
麻里は仁美とルームシェアして半年経つ。大学入ってすぐから同棲していた彼氏にに浮気されて、部屋がなかなか決まらない麻里を、仁美が快く迎えてた事がきっかけだった。
家に帰って出かける支度をしていた。
「あー、うまくメイクできない・・・どうしてそんなに仁美は上手なの?仁美は元がいいからか・・・」
鏡の前で麻里が言った。
「麻里だって可愛いよー、かして、私がメイクしてあげる」
仁美がそう言って、麻里の持っていたチークを手に取った。
麻里は仁美が真剣にメイクをする姿を、ぼーっと見ていた。
少しつりあがった大きな目、高い鼻、厚めのセクシーな唇
「仁美は可愛くていいなぁースタイルもいいし、男なら絶対仁美に告ってるよ」
麻里が言った。
「あはは・・・あ、ちょっと顔うごかさないでね」
仁美が、麻里の頬を支えて顔の位置を固定した。
「手も綺麗、指細いよねー、あー羨ましい」
麻里がため息をついた。
「麻里はもっと自分に自信持ちなよー、私も麻里の事可愛いって思うし、羨ましいよ、ほら、できた、すっごい可愛いー」
仁美が笑顔で言い、麻里に鏡を向けた。
「わぁ、仁美がメイクすると、私別人みたい!やっぱ上手ー」
麻里が鏡に釘付けになった。
「ねぇ、何着てくー?暑いからキャミ着てこうよー、これかしてあげるー」
仁美がクローゼットをあさって、麻里にキャミソールを差し出した。
「めっちゃセクシーじゃね?」
麻里がキャミソールを体にあてて、興奮した様に言った。
「セックシー!うちら今年21だし、やっぱセクシー路線でしょ」
仁美が笑って言った。
「後は髪やってー、今日は飲むぞー」
麻里が笑顔で言った。
街に出ると、辺りはすっかり暗く、飲み屋街はネオンに照らされていた。
麻里は、ショウーウィンドーに映る自分の姿を見ていた。
仁美にメイクしてもらって、仁美の服を着ていると、なんだか仁美のように綺麗になったようで嬉しかった。
「ねぇ、仁美、今日大輔君と会わなくて良かったの?」
乾杯した所で、麻里が言った。
「あー、なんか今日バイトみたい、てか、大輔ね、最近あんまり遊んでくれないの、バイトが忙しいとか言ってね、浮気してたらどうしよう」
カラカラと綺麗な指でグラスを鳴らしながら、仁美が悲しそうに言った。
「こんな綺麗な彼女がいるのに、浮気なんてするわけないよ。もしもしてたら、私が許さない」
麻里がニコニコして言った。
「ありがとう、麻里大好き」
仁美が笑った。
「私も、仁美が大好き」
ねぇ、仁美知ってる?
仁美と暮らして3ヶ月位経ったころから、私気付いたんだ・・・
その大好きって気持ちは、私のと仁美のはちょっと違うんだ・・・
でも、仁美には言わないよ
仁美に嫌われたくないの・・・
「もう一軒行く?それともカラオケ?」
一軒目を出ると、仁美は上機嫌のようだった。
「カラオケで飲む?」
麻里が言った。
「いいねぇー、さっすが麻里ー、分ってる」
仁美が言った。
「安い飲み放題のカラオケあったじゃん、あそこ行こうよ」
麻里が言った。
「あ、あのラブホ街の横でしょ」
仁美がそう言うと、二人はカラオケに向かった。
「なんか酔いさめてきたかもー、カラオケ混んでるかなー」
カラオケまで、後、数メートルの所で麻里が笑顔で言った。
「・・・・・・・」
仁美が黙って急に立ち止まった。
「仁美?」
麻里が言ったと同時に、仁美が
「大輔・・・」
と言った。麻里は仁美のぼーっと見つめる先を、仁美の視線をなぞるように見た。
ラブホテルから肩を並べて、仲良さそうに出てきたカップルが目に入った。
そのカップルは、ホテルの出口で濃厚なキスをし、きつく抱き合い、再び大きく口を開けて、唇と舌を休むことなく絡めあっていた。
そのカップルの男は、紛れもなく大輔だった。
「あ・・・」
麻里が言葉を失った時だった。
無言で仁美がカップルに早足で駆け寄った。仁美の横顔はまさに鬼の形相だった。
「仁美!」
麻里が仁美を追いかけた。
「何やってるの!?・・・・何やってるの!!」
仁美の大きな怒鳴り声が、ホテル街に響いた。その声と同時に、大輔が女を放した。
「何やってるの!って聞いてるんだよ!!!」
仁美が更に大きな声を上げた。
夜遊びを楽しむ沢山の人々が一斉に注目し、今までざわめいていた繁華街が、まるで誰も居ないかのように、一瞬静かになった。
「え、何なのー何なのー」
女が驚いた様子で、何度も言っていた。
「仁美・・・」
大輔が、焦って何かを言おうとした時だった。
仁美が持っていたバックで思いっきり大輔を殴った。大輔が少しよろけると、仁美は何度もバックで大輔を殴った。
「ごめん、仁美、やめろって・・・」
大輔が手で顔を覆い、そう言った。
「あんたなんか、最低!最低だよ!!」
仁美は更に大きな声で叫ぶと同時に涙を流し、一人でふらふらと歩いていった。
「仁美!」
麻里はすぐに後を追いかけた。
「仁美?」
両手で何度も顔を拭きながら、力なく歩く仁美に呼びかけた。
「最低!最低!大輔ってあんな奴だと思わなかった」
仁美の目からはどんどん涙が溢れていた。
「仁美、おうちで飲み明かそう、仁美には私がついてるよ、今日はずっと仁美の話を聞いてあげるからね」
麻里が、仁美の肩に手を置いて言った。
「麻里・・・」
仁美は麻里に抱きつき、肩を震わせて泣いていた。
可愛そう・・・
仁美・・・仁美・・・
私だったら、仁美を絶対泣かしたりしないのに・・・
仁美・・・
私が仁美のそばに、ずっといるからね・・・
家についてから、明け方まで仁美のやけ酒に付き合った。
仁美はとても早いペースで、沢山飲んで何度か吐いていた。
そして、ついに酔いつぶれて、ソファーで寝てしまった。
麻里は、仁美にタオルケットをかけ、ソファーの端に、肘をついてその寝顔を見ていた。
可愛い・・・
綺麗だな・・・
あんなに泣いて、顔腫れまくってもすごく綺麗・・・
麻里は、仁美の唇に一瞬だけ自分の唇を重ねた。
ねぇ、仁美・・・
仁美の唇はとっても柔らかいんだね・・・
ねぇ、仁美・・・
大好きだよ、仁美・・・
愛してる 第二話を読む