記録的な猛暑も何時しか去り、秋が訪れようとしています。先般、開催された世界陸上選手権についての感想を…とも思ったのですが、あまりに日本選手諸氏の成績が思わしくなかったので、ちっとばかり悄気ています。ま、こっちが勝手に期待していて、その通りにならなかっただけのハナシなんですが…。
だから、気分を変えて偶には柄にもなく辞書だの書物だのを繙き、『秋』についてお勉強でもしようか、と。
そもそも『秋』という字は、本字では偏の方が『火』で、旁の方が『禾』、つまり左右あべこべなんです。また、古字では『龝』と書いていたのですね。更にもっと古い文字では禾偏の下側に『火』が付してあって、秋という字は『禾』『火』『龜』の三要素を組み合わせた字であった訳です。『龜』は勿論『亀』の古字です。
…古代の占いは『亀の甲羅』に『火』を近付けて行なわれました。その時に出来る亀裂の具合で秋季の『禾』、つまり『穀物』の収穫を占った訳です。やがて字が簡略化され、『禾』と『火』が残り、『秋』となったのです。…知らなかったなー。
『物思う秋』というくらいだから、秋には趣深い様々な言葉が有ります。これも殆ど知らなかったけれど…。
『秋韻』しゅういん…秋の声。秋のひびき。秋のおもむき。……ひんやりとした風に秋の気配が感じられた時に『秋韻』が聞こえてくるのです。その内に、朽ちた木の葉がカサカサ…と乾いた風に舞う様になれば秋韻は更に深くなり、『冬将軍』の足音さえ聞こえてきます。
『秋暉』しゅうき…秋の日の光。『暉』というのは読んだ字の如く、元々は『日が巡り輝く』という意味です。…で、一方に『春暉』という言葉も有ります。これは勿論『春の日の光』という意味ですが、転じて『父母の恵み』の喩えにもなっています。同じ日の光でも、秋と春とでは斯様に雰囲気、印象は異なるんですね。
『秋蛩』しゅうきょう…『蛩』の字は少し異なる字なのですが、こおろぎの事です。秋の夜に鳴くこおろぎの声。
『秋河』しゅうが…秋の夜の天の川。銀河の事です。わざわざ『秋の河』と特定したのは、秋の夜空の澄んだ大気を通して見る銀河の明瞭な美しさが、他の季節のそれと較べて格別だからでしょう。
『秋水』しゅうすい…澄み切った秋の水。転じて清らかな心。くもりなく光る刀。明鏡。清らかな目……特に美人の目の事を言うのだそうです。そんな“美人の澄み切った目元”の事を『秋波』しゅうは…と言います。秋波は女性の媚びた目付き、色目使いなども指します。また、秋波を『ながしめ』と読ませる場合も有ります。女性の目ヂカラ『秋波』は、季節に関係無く『秋波』です。
『秋娘』しゅうじょう…中国は昔、唐の時代に知られた謝秋娘(しゃしゅうじょう)、杜秋娘(としゅうじょう)という二人の美人の名から転じて『秋娘』とは、世の美人をいう……のだそうです。一方で『秋娘』とは、容色の衰えた女性、年増の女性をも指す事が有ります。これは、女性の人生を春に始まり、冬に終わる四季に喩えています。その中で後半に差し掛かって、これから昏れてゆく冬を待つ『秋』に位置する女性……それを『秋娘』と呼ぶ訳です。男性が女性に対して使用する際には非常に注意を要する言葉です。
『秋扇』しゅうせん…文字通り読めば秋の扇です。夏の間はさかんに使用された扇も、秋になってサッパリ見向きもされなくなる。つまり、役に立たなくなり捨てられたモノです。…転じて『愛されなくなった女性』を指して言うのです。悲しい意味合いですが、少しばかり粋な言い回しです。男性に飽きられた女性本人が「どうせアタイは秋扇…捨てられた女ですから。」…と、やんわり、少々恨みがましく言うのはサマになりますが、他の人が「あの人は秋扇だ。」なんて言うのは野暮というものでしょう。
『秋怨』しゅうえん…秋の悲しみ。人に捨てられた悲しみを言います。……夏に『夏怨』なんて言葉は、あまり似つかわしくないですかね。人と人は夏に出逢い、秋に別れる…というイメージが日本人の心中には有るのでしょう。とすれば、如何にも秋の言葉です。
『秋芳』しゅうほう…秋に咲く花を言います。桔梗(ききょう)、秋桜(コスモス)、撫子(なでしこ)、萩(はぎ)、竜胆(りんどう)…色々と有ります。どれも『秋芳』である訳ですが、特に菊(きく)を指して言う事が多い様です。
さて、気候の話に戻ります。秋の雨に関して言えば『秋霖』しゅうりん…という言葉が有ります。秋の長雨の事です。『秋湿り』あきじめり…という同義語も有ります。しとしと、冷たく降り続く雨です。佐渡ケ島では、これを『通草腐らし』あけびくさらし…と呼んだりします。…雨が続くと腐っちゃうんでしょうね。秋霖は他に『秋黴雨』あきついり…とも言うそうです。『ついり』とは『梅雨入り』の意味です。秋でありながら、梅雨を思わせる長雨だからでしょう。
『秋潦』しゅうろう…という言葉、これは秋の大雨の事です。『潦』ろう…というのは、雨水、大雨で溢れ流れる水の事です。『潦』一字で『にわたずみ』とも読みます。これは雨によって出来た、庭などの水溜まりを言います。
『秋霽』しゅうせい…秋の雨がやんで爽やかに晴れる事。やはり他の季節の雨上がりよりも、一層の爽やかさを感じさせる言葉です。
『秋千』しゅうせん…ぶらんこです。イメージとしては、雲よりも高く翔ぶ鷹を乗せる風『鷹風』ようふう…が吹く、蒼い秋空の下で、千回くらいぶらんこを漕ぐカンジですかね?…ぶらんこには『鞦韆』という難しい書き方も有ります。だけど、なかなか書けないし、ムキになって画数をカクカク書くのも何ですから『秋千』と書くのも、結構、お洒落かと思います…。