牡丹がきれいな季節ですネ。私は色々な花が好きですが、最も好きな花は蓮と牡丹なんです。
牡丹を見ると、その中に牡丹の精が居るような気がします。私が小学校4年の夏休み、小学生用「聊斎志異(りょうさいしい)」という中国の物語が指定図書になりました。その時に読んだ。「牡丹と耐冬(椿)」という話が忘れられなくて、大人になってから古本屋で買いました。
それはこんなお話です。
「牡丹と耐冬(ツバキ)」(「聊斎志異」巻11)

『勞山の山中の下清宮という道教の寺の庭園には見事な耐冬(ツバキ)と牡丹の木が植えられていました。
ある日、この下清宮に滞在していた黄生(こうせい)という詩人が書斎の窓から庭を眺めていると、白い服を着た女性と紅い服を着た女性がいるのに気づきました。やがて黄生は白い服を着た女性と知り合い、彼女の名前が香玉(こうぎょく)であること、紅い服を着た女性の名前は絳雪(こうせつ)で、彼女達は義姉妹の契りを結んでいることがわかりました。
黄生は香玉と結ばれ、逢瀬を繰り返しました。その後、下清宮に滞在することになった富豪が庭園の白牡丹を気に入り、寺の許可を得て自宅に移し変えました。それ以来、香玉が現れなくなったので、黄生は香玉が白牡丹の精であったことに気付きました。
絳雪は耐冬(ツバキ)の精でした

富豪の家に移された白牡丹が日々萎れていることを聞いた黄生は、毎日、白牡丹が植えられていた所へ行き、詩を詠んで涙を流しました。すると、絳雪が現れ、二人は香玉を失った悲しみを語り合いました。黄生にとって香玉は愛妻であり、絳雪は良友でした。絳雪は耐冬の精だったのです。
ある日、絳雪がやってきて、花神が黄生の情に感動して香玉を再び下清宮に戻したことを黄生に伝えました。やがて再会を待ちわびる二人のもとに香玉が現れました。黄生は香玉を抱き寄せましたが、香玉の身体は透き通っていました。香玉は花の幽鬼になってしまったからです。
香玉は牡丹の精でした

黄生の介抱の結果、1年後に、白牡丹が花を開くと香玉は元の姿に戻りました。愛妻と良友がそろうと、黄生は甥の一人を後継ぎに決めて本宅へ戻るのをやめました。
それから約10年後、黄生は病気になり、嘆く家人に「いつか白牡丹の下に赤い芽が出て葉を一度に5枚つけたら、それが私です」と言って亡くなりました。
翌年、白牡丹の左側に、葉が5枚ついた牡丹の赤い芽が出てきました。下清宮の道士は水をやって育てましたが、3年経っても大きくなるだけで花を咲かせませんでした。道士が亡くなると弟子が跡を継ぎましたが、花の咲かない牡丹を切ってしまいました。すると、白牡丹も萎れて枯れてしまい、耐冬も枯れてしまいました。』
詩人と牡丹の精の恋物語です。なんと美しい話でしょう。それ以来、私もいつか香玉に会えるのではないかと、牡丹の花を見ると、つい覗き込んでしまうのです。

「耐冬」というのは椿のことですが、椿の精である絳雪は、香玉という白牡丹の精と青年の恋を、見守り支援する脇役です。ひっそりと二人の恋を遠くから見守り、香玉が不在の間は青年を励まし続けた彼女もまた彼に惹かれていたことでしょう。でも、絳雪はそれを匂わすことさえもしません。そんな彼女を愛する人は多いのでしょう。この物語の舞台となった山東省にある太清宮の椿の大木の下には絳雪を偲ぶ石碑があり、多くの観光客が訪れるそうです。