眩暈というのは波のように高低がある。小さく頭の中が揺れる瞬間に、僅かな気持ちよさが襲う時がある。そして眩暈特有の不快感が、並みの引き際にやってくる。一瞬の静寂・・・。次の瞬間、津波のように頭痛を伴った眩暈が、身体の自由を奪う。まさに今、私の身体は、何者かに支配された、肉の塊と化していた。
「さ、終わりましたよ。」
何処をどうされたかわからないまま、彼女の一声で正気にかえった。
濡れたタオルを持ったまま彼女が部屋を出て行くと、私に冷静さが戻ってきた。
落ち着いて、考えてみよう。私が交通事故で怪我をし、個々に運び込まれたのは事実である。では、ここはいったい何処なのだ?そしてあの女性は誰だ?普通に考えても、あの行動はおかしい。いったい私に何をしようとしている?単なる看病とは思えない。とにかく、家に連絡をしてもらおう。そして、あらためて病院へ移してもらおう。・・・それは可能なのか?ふと、一瞬わけのわからない恐怖が湧いた。とにかく、あの女性に話してみよう。状況や、理由を聞いてみよう。別に命を奪われるわけでもないのだから。
ふたたび、女性は部屋に入ってきた。
「お薬です。」
そう言って白い粉の入った袋を私の前に差し出す。
「まだ、一人では飲めませんね?」
横に座り私の口を開いた。少しずつ口の中へ薬を入れると、自分でコップの水を口に含み、口移しで私に薬を飲み込ませた。やはり、変だ。ここまで身も知らぬ男にするはずはない。
「は、話を・・・」
上手く口が回らぬが、思い切って尋ねてみた。
「あ、あなたは・・・?」
「前にもお話しましたわよね。ここの主人のエリカといいます。」
「こ、こ、ここはどこなんですか?」
「あなたが、怪我をなされた場所から近いところ・・・」
やはり、まだ納得がいかない。しかし、このエリカと名のる女性に、今までの私への接し方の説明を、どう訪ねたらいいのか困った。失礼なこと直接聞くのも何か変であるし、もし・・・
「大丈夫ですわ。明日になれば、きっと貴女の身体も回復なさるでしょうから・・・」
窓の外を見つめていたエリカは、私の顔を見つめなおし言った。
「あ、あの・・・何故、私に・・・これほどまで・・・こんなにまで、し、親切にしてくれるの・・・です?」
言葉を選びながら尋ねた。
「あたりまえですわ・・・」
「え?」
「いえ・・・怪我を、なされているんですから・・・」
「い、いや、で、でも・・・ここまで・・・して・・・看病して・・・」
おや?どうも、またうまく言葉が出ない。舌や口先が痺れてきている。それに何かまた、眠いような・・・?おかしい?この怪我の状態としては、こんな症状はおかしい!
「どうしましたか?気分が悪くなりまして?」
・ ・・薬!まさか?あの薬が?
「横になられた方がいいですね。」
私の身体を横にさせると、布団を上にかけた。
「少しお休みになってください。」
また、私の意識が遠のいていく。重くなった眼を閉じ暗闇の中に引きずり込まれていく瞬間、私も唇に温かく柔らかなものが押し当てられた感じがした。彼女の唇なのか・・・?
闇の中に恐怖を感じたまま落ちていった。
以下次回

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