本当の闇というものを体験したことがあるだろうか?現代社会、夜でも街には灯りが溢れている。地上の光が届かない場所でも、空には遥か何万光年も離れた星から届いた明かりが足元を照らす。だから、本当の闇というものを経験することはあまりないはずだ。
今、私は闇の中にいる。現実か夢かの区別もつかない。身体の自由も利かない状態で、今、自分が何処にいるのかさえもわからない。しかし、重い鉛のような水の中を漂うな感覚がある。
カサカサ!
衣擦れの音に意識が現実に戻された。確かに耳から聞こえた音だ。暗闇の中で何の音かは確かめることは不可能だが、どうやら私のベッドの横に誰かがいるようだ。
「ふっ・・・」
吐息の漏れる気配・・・。顔の前に生温かい空気を感じた。右の頬を湿った風が当たった。
「んっ・・・」
声にならない声が耳元で囁いた。と、そのとたん、唇に柔らかいものが触れた。誰かの唇が私の唇を覆ったのだ。
何事が起こったのか理解が出来なかった。
暗闇の中で何者かわからない相手と唇を合わせている。この状況を把握するまでしばらくかかった。しかしこの後どうしていいかの判断力はない。というよりも、体の自由が利かないのだから、どうする術もない状態なのだ。その相手のなすがまましかない。
艶めかしいほどの唇が静に私の唇から離れた。しばらくの静寂・・・。
ささささっ!
あの衣擦れの音が遠ざかっていく。そしてまた、暗闇と静寂・・・。
いったい今の出来事は何だったのだろう。頭の中が混乱している。まだ夢の中だったのか?幻なのか?そんな判断も出来ないくらい混乱している。いったい何だったのだ?あれは誰だったのだ、ということを考える以前に、あの出来事自体が理解できないのだ。この暗闇と自由の利かない体が、精神状態までも異常にさせている。
そんな混乱した精神状態がしばらく続いた。考えるという段階ではない。この状態が続くと精神的な疲労の蓄積が急速に進む。知らず知らずのうちに睡魔に襲われる。三度、深い眠りに落ちていった。
以下次回


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