今の私には、この部屋を見渡せるほどの視界はない。首まで動かないからだ。意識だけがやっとハッキリしてきたが、体全体の感覚はまったくない。何とも歯痒い。
天井とそこに吊るされたシャンデリアから考えても、この家はどこかのマンションや民家という感じではない。よく映画などで見る、西洋館か豪華ホテルという景色だ。果たして私の住む田舎町にそんなところがあったのか?
あの事故からどのくらいの時間が過ぎたのだろう?数時間?それとも何日もたっているのだろうか?
あれやこれやと考え悩んでいると、
「お待たせしました。」
どうやら食事を持ってきたようだ。あの女性が私の枕もとに立っている。
「普通のお粥です・・・」
スプーンで口元にもってくる。しかし、私は口元までも感覚が薄れているせいか、上手く口が開かない。
「あ、駄目みたいですね・・・」
やはり、というような顔をした女性は、そのスプーンですくったお粥を自分の口に入れた。そしてそのまま、顔を私の顔に近づける。目の前に美しい顔が迫ってきた。そして私の口に直接自分の口から、お粥を流し込んだ。まったく感覚のないはずの唇が、女性の唇の温かさと柔らかさを感じた。
「味はわかりませんよね?」
二度三度と、その作業は繰り返された。驚きと困惑と同時に、その女性の唇の艶めかしさに不思議な感覚を覚えた。
食事を終えた頃に、首から上の感覚が戻ってきたようだ。あの唇のせいか?しかしやはり声は出ない。
「もう少しお休みになるといいですね・・・」
そう言うと女性は部屋を出て行く。
カチッ!どこかのスイッチを消す音とともに、シャンデリアの灯りが消えた。
「おやすみなさい」
女性の声がドアの外から聞こえた。
何がどうなっているのか、わからないことだらけだ。頭の中がパニックになっている。考える力が欠如している。少し休もう。頭の中を少し休めて、また考え直そう。何か、眠くなってきた。目を閉じると、再び深い闇の中に意識は吸い込まれていった。
以下次回


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