肩より少し長めの黒髪が、シャンデリアの灯りに艶やかな光を反射している。色白の顔は大きな瞳が印象的な、かなりの美人である。歳の頃なら、二十代後半からせいぜい三十を少し越えたくらいであろうか。
薄いピンクの小花を散りばめた柄で、ノースリーブの、まるでハワイのムームーのようなワンピースを身にまとっている。この冬場に?いくら室内と言っても季節感のない服装である。肩から伸びた、白い身腕が妙に艶めかしく感じる。
「ご気分はいかがですか?」
ベッドの脇に立ち、私の顔を覗き込んだ。目の前にその女性の顔がある。
「・・・あなたは?」
そう、尋ねようとしたが、やはり声が出ない。口をパクパクさせていると、
「声が出ないようですね。胸に大きな痣がありましたから、ぶつけたときにどこか痛めたのかしら?」
やはり、事故は夢ではなかったのか。胸に痣?他にはどこか怪我はないだろうかと、身体を起こそうとした。・・・動かない。体が動かない。というよりも、首から下に感覚がないのだ。たしか、車の中では下半身だけが麻痺していたはずだ。ところが今は両腕も動かない。そんなに重症なのか?
「無理をなさらないで。両足にひどい怪我をなさっていたので、痛み止めの注射をしたから全身が麻痺しているのよ。」
それで、まだ朦朧としているのか?しかし、ここはどこだ?病院にしてはおかしいし。それにこの女性は、看護士や医師にはどう見ても見えない。不思議な顔で女性を見つめると、それを察したのか、
「私は、この屋敷の主人のエリカといいます。以前、看護士をしていましたので、あなたの処置は私がしました。ここから病院まではかなり距離がありますので…」
ちょっとまってくれ。距離があるって言ったって、救急車を呼べばすむことではないか。あの山道は、それほど山奥というところではないはずだ。
「心配なさらないで。怪我はそれほどひどいものではないから、二、三日ここで療養すれば大丈夫よ。」
ここで?病院には連れて行ってくれないのか?・・・そうだ、家に連絡をしなくては!
「ごめんなさい。ここには電話もないから外へ連絡も出来ないの。雪もひどくなってきて、吹雪いてきているから・・・」
この女性は私の考えていることがわかるのか?
「もうすぐ、食事が出来ます。普通の食事は無理なので、お粥のような流動食で我慢してくださいね。」
少し頭はすっきりしてきたが、訳のわからない状況に混迷している。
女性はそのまま奥の部屋に消えていった。
しかし、あの事故は何だったのだろう?そういえば、あの大型車の運転手はどうしたんだ?私をここへ運んできたのは誰なんだ?警察には連絡してくれたのだろうか?・・・電話は無いと言っていたな。ということは、私が事故を起こしたことは誰もわかっていないのか?いや、事故の現場をみれば誰かが気付くはずだ。それに、私が帰らなければ妻も心配で捜すだろう。しかし、ここはどこなんだ?
以下次回

0