2009/3/6


ちょっと抜けてるわたしの両親。
バカだな、って。アホだな、って。
彼らに対して思うことは今までいくらでもあったけど、今日ほど強く感じたことはない。

「十九年前、妃陽が生まれた時、占い師の人からこう言われたんだ」

テーブルの上には唐揚げ、菜の花のサラダ、かぼちゃスープ、そして茶碗蒸し。
わたしの好きなものばかりが並べられている。
きっとわたしが合格発表を見に大学に行っている間に母が準備したのだろう。
短大だけれど食物栄養科を卒業しただけあって料理はそこそこ上手い母。
大好物が目の前に広がっているけれど、今は少しも興味を持てなかった。

「この子は十九歳と五十二歳のどちらかで結婚しないと良縁には恵まれない、って」

人は誰しも人生においてモテ期があるとよく聞くけれど。
結婚適年齢だなんて初めて聞いた。
もしこの二つの年齢でしか良い縁談を得られないのなら、モテ期なんて意味がないではないか。

「つまり今年が、一つ目の妃陽の結婚適年齢なんだ」

結婚適年齢、って。
自分が考えていた同じ言葉を口にした父に、やっぱり親子なのだと頭の隅でぼんやり思った。
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2009/3/5

1.妃陽、結婚しよう  19年前のお告げ

一年越しの努力が実ったことに、思わず涙してしまった。
永瀬妃陽、十九歳初日。
最初の誕生日プレゼントは、憧れていた大学の入学許可だった。

「無事合格しました」

帰宅して二度目の報告。
ついさっき電話で合格を伝えたのに、両親はまだ信じ切れていない様子。
確かに、わたしがこの大学に合格できたのは奇跡に近い。
昨年末に行われた最終模試でも、合格確率は半分にも満たなかった。
本命どころか滑り止めの大学ですら、受かるか受からないかの瀬戸際だった。
二人がすんなりと事実を受け入れられないのは、無理もないのかもしれない。
それでも一応、一人娘の合格。
しかも一年間の浪人生活を経て得た結果。
いくらまぐれだとしても、少しくらい喜んでくれても良いじゃないか。

「本当に受かったのね?」

確認するように訊ねる母。
さっきから何度もそう言っているではないか。
いくら親でもちょっと失礼じゃない?

「合格したんだってば。ちゃんと証拠写真もあるし、きっともうすぐ合格通知も届くはずだよ」

掲示板に載っていた自分の受験番号を撮った写真を彼女に見せようと携帯電話を開こうとしたら、今度は父が「本当に通うんだね?」と念を押すように訊いてきた。

「当たり前だよ。その為に一年間勉強してたのに。せっかく合格したのに行かないわけないよ」

さっきからこの二人はなにを言っているのだろう。
人の合格を疑ったり、大学に通うのかどうかなんて。
今朝まで合否に関係なく今夜はご馳走だと盛り上がっていたのに。
驚き過ぎて、頭が少し変になってしまったのだろうか。

「二人ともちょっとおかしいよ? 言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」

二人で目を合わせては気まずそうにわたしのことを見つめる。
こういう時は、決まって彼らは言いたいことを言えずにいる。
父の急な出張で家族旅行が中止になった時。
わたしのお気に入りだったお皿を割ってしまった時。
二人で食べようと隠していたお菓子をわたしに見つけられてしまった時。
昔から互いになかなか話を切り出すことができないわたしの両親。

「黙ってたらなにも分かんないじゃん」

この二人を見て育ったせいか、わたしはどちらかというとはっきりと物申す方だ。
言葉にしないと相手に伝わらない。
それはわたしがこの家庭で学んだこと。

「驚かないで、怒らないで、聞いてくれよ」

先に口を開いたのは父。
驚かないでよりも怒らないでの方を強調したのがちょっと気になった。
わたしが怒りそうなこと?
訊きたいのは山々だったが、まずは話が進むことが優先だ。
「わかった」と頷くと、父は深呼吸をした後にゆっくりと話し始めた。

「ごめん。もう一回言って」

今言ったことをもう一度繰り返すように父に頼む。
決して彼の声が聞こえなかったわけではない。
むしろはっきりと聞き取り過ぎて、逆になにを言っているのか分からなかった。
心を落ち着かせ、静かに彼の言葉を耳に入れる。
しかし、何度聞いても変わらぬ内容だった。

「ねえ、本気で言ってるの?」

あはは、と笑えていない声で訊ねる。
父だけでなく、母の表情も真剣だ。
これは冗談ではなく、本当のことのようだ。

「妃陽、結婚しよう」

聞き慣れた低い声が、わたしの思考回路を停止させた。
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