僕は小さい頃〜小学5年生ぐらいまで、ポータブルステレオでレコードを聴いておりました。ポータブルステレオというのは、シングル盤が乗る大きさのターンテーブルにアンプが内蔵されていて、独立した小さいスピーカーが2個付いている小さいオーディオです。
当時はモジュラーステレオと呼ばれたコンパクトなオーディオが流行しておりましたが、僕に与えられていたのは、プラスチックで出来たオモチャのような、小さなレコード再生装置でした。
幼稚園ぐらいの時は、このターンテーブルの付いている箱の中に、小さい歌手と楽団がいて、レコードをかけると中で演奏が始まり、実際に小さい歌手が歌っているのだと思い込んでおりました。
僕は箱の中で歌っているはずの、その歌手の姿が見たくて、どこかに中をのぞける隙間がないものかと、レコードをかけながら何度も調べたのですけど、中が見える穴などなく、残念ながら実際に歌っているところや演奏しているバンドを見る事ができませんでした。
ある日「怪物くん」のレコードを聴いていた時、突然「シューッ」という音と共に、白い煙が勢いよくポータブルステレオから出て来まして、ステレオは壊れてしまいました。
それからしばらく、僕が自由に使えるポータブルステレオはありませんでした。
ステレオが壊れてから、半年ぐらい経ったある日、親が新しいポータブルステレオを買ってきてくれたのですけれど、その頃には、中の歌手や楽団を見てみたいとは思わなくなっていました。
何となく、もう中に歌手や楽団がいないのだと、わかっていたのです。
白い煙が出た時、実は中には誰もいないのだと、理解してしまったのかもしれません。
しかし本当は、ステレオの中にいた小さな歌手や楽団は、あの白い煙と一緒に、どこかに逃げて行ったのです。
そして、今でもどこかの家にある、小さい子が使うオーディオの中で、彼らは歌い、演奏しているのです。
きっとね。