「山下達郎×大瀧詠一 新春放談2008 Part1」
ナイアガラ 関連

昨日、毎年恒例の「山下達郎×大瀧詠一 新春放談」のパート1が放送されました。もう新春放談も四半世紀も続いているそうですが、今年は大滝詠一さんのアルバム「ナイアガラ・カレンダー」に特化した内容でした。
いやあ、もう話の内容が濃い濃い!素晴らしい内容でした。「ナイアガラ・カレンダー」というのは、1曲ずつ月別の曲が収録されたアルバムで、12ヶ月分12曲のコンセプト・アルバムです。発売は77年12月ですが「カレンダーは前年の12月に配布される物」なので、発売もそれに従ったそうです。大滝御大、このアルバムの制作時、まだ29歳。
「ナイアガラ・カレンダー」はミックス違いが3種類ありまして、78年版(実際は77年)のオリジナル・ミックス、81年版のセカンド・ミックス、86年版の吉田保さんによるミックスが発売されており、78年版のファースト・ミックスは今年の3月に初めてCD化されます(81年版との2in1の予定。しかし2枚分の合計時間がCD収録可能時間を超えてしまうため、短縮したそうです。「CDの最大収録時間が78分16秒だって言うから78分16秒入れた」そうで、短縮の詳細は「聴いてからのお楽しみ」との事)。
78年版はレコーディングが行われた大滝さん所有のスタジオにエコーマシンがなかったためにノンエコー(ノンリヴァーブ)で、81年版はミックスにエコーが使えるようになり、86年版は自分ではなく吉田保さんにミックスを一任したという違いがあり、音の感じはそれぞれでかなり違います。
今回、リマスターのために30年ぶりにテープを聴き返したところ、なんと78年版はステレオのチャンネルが「左右逆」だったという驚愕の事実に気が付いたそうです。部屋の配置を変えたため、卓(レコーディングコンソール=いわゆるミキサー)のアウトプットが左右逆につながっていた事に気が付かず、時間に追われてミックスしたために、左右逆のミックスのままレコード化されてしまったという、本当に驚愕すべき話でした(今回のリマスターでは左右を正しく戻して発売するそうです)。
他にも福生スタジオにはリースのハモンドオルガンがあって井上鑑さんが「Blue Valentine's Day」で弾いたとか、ドラムの上原ユカリさんが時々いなくなったので、鈴木慶一さん経由でかしぶち哲郎さん(もちろんドラマーです)を呼んだとか、「五月雨」の78年版にドラム(タム)を入れたかったのにユカリさんがいなくなったのでドラムが入っていないとか、81年版の「五月雨」に入っているタムはそのユカリさんが叩いているとか、エコーマシンがなかったので「五月雨」は「音の厚みを出すためにコンクリートの部屋でエアコンを切って何百回もダビングした」とか興味深いマニアックな話が次々と出てきました。
マイクは「エコーマシンがないので、エコーの効果を出すために、板間でリボンマイク(RCA DX77)を使って多少マイクを離してヴォーカルを録音した」というような説明をしていました。このリボンマイクでは「ロックンロールお年玉」「名月赤坂マンション」「クリスマス音頭」を録音したそうで「名月赤坂マンションが一番リボンマイクっぽい音がしてる」と言っていました。マイクを離して歌ったのは、リボンマイクの特性上、いわゆる息の「吹かれ」に弱いせいもあるのでしょうけれど、実に良い音で録音されていると思います。
このマイク(RCA DX77)はコロムビアから貰った物なので、美空ひばりさんや小林旭さんがレコーディングで使っていたマイクではないか、と考えているそうです。
「Blue Valentine's Day」のアコースティック・ギターは「ノイマンのニーロクキューを全方向(全指向性)にして録音した」と言っていました(ノイマンM269=チューブのコンデンサーマイク)。「それで多少エコーっぽくなるから」という理由で、板間でギター3人が車座に座り(冷えるので座布団あり)、マイクを囲んで演奏したそうです。
「Blue Valentine's Day」のヴォーカルは「エレボイのRE20を使ってDJスタイルでやった」とも言っていました(エレボイ RE20=Electro-Voiceのダイナミックマイク「RE20」。独特のデザインのロングセラーマイク。
これです)。「ゴー!ゴー!ナイアガラ」でもRE20を使っていたそうです。
大滝さんがそんな風に様々なマイクを使い分けていましたので、達郎さんが「商業スタジオでやるメカニカルなレコーディングと違いますよね」と感心していました。ちなみにアルバム「ロング・バケイション」以降のマイクは「サンパチA」と言っていました(SONY C-38Aという定番のコンデンサー・マイク)。
大滝さんが「当時はリボンマイクのメンテナンスが出来る人がいたからその人にメンテナンスをしてもらって使った」と言っておりましたが、現在ではリボンマイクはコンデンサーマイクに取って替わられ、ほぼ絶滅状態ですし、こうしたレコーディングの資料や音を残す事は、後世のエンジニアたちの貴重な参考になるとも思います。今ではデジタル技術でマイク特性のシミュレーションも可能になりましたけれど、やはりそれぞれのマイクの音の個性には何とも言えない魅力があります。
他に、達郎さんの疑問で「お花見メレンゲ」のイントロのピアノのポリリズムはどうやったんですか?という質問には「あの頃もうイーブンタイドがあったと思う」という答えで、ディレイ処理だという事がわかりました。そうだったのかあ!!(イーブンタイドとはディレイやハーモナイザーで有名なメーカーです)。
つまり多分、ピアノの同じフレーズをオクターブ違いで別トラックにダビングして、低い方にだけディレイ(ドライ音は無し)をかけて遅らせていたというわけなんですね(この解釈で間違っていないと思います)。達郎さんも「(ピアノが)2台でやってるんだと思ってた。聞かなきゃわからないなあ」と言っていました(「ロックンロールお年玉」のヴォーカルのディレイはテープエコーかな?と思っているのですが、これももしかしてイーブンタイド?果たして正解は?)。
その他「たまに聞こえるのはトイレのルームエコーと…」と言ったところで、達郎さんの別の質問があり、続きが聞けなかったのが残念です。
僕がこれらの「福生45スタジオ(大滝さんの自宅スタジオ)」で録音されたアルバムに惹かれる理由は、僕も約30年自宅録音をしている者として、その工夫や独特の手法に魅せられているという部分も非常に大きいので、こういう話が聞けるのは本当に嬉しいです。
何と言っても、僕が大滝詠一さんの事を初めて知ったのは、70年代に「自宅スタジオを持っているミュージシャン」という本の記事を読んだのがきっかけでしたから、今でももっと「福生45スタジオ」の事を知りたいのです。大滝さん、マニア向けに福生45スタジオだけのサイトとか作ってくれませんでしょうか?写真や資料、レコーディングのエピソードなどが満載の、スタジオだけのサイトです。いかがでしょう?
というわけで、来週のパート2の放送も楽しみにしております。
Part2のレビューです:
「
山下達郎×大瀧詠一 新春放談2008 Part2」