前にもこの話題で書き込んだことがあったかと思いますが、最近やたらとマスコミが宣伝しているので、気になってもう一度ワープロに向かいました。このタイトルはある英会話教材の宣伝文句です。今日、帰りのカーラジオでもしきりに宣伝していました。「勉強は一切必要ありません。ただ聞き流すだけで英語が話せるようになるのです。赤ちゃんが言葉を身に付けるとき、勉強などしていますか?」
この宣伝文句には大きな間違いがあります。それは、人間がただ言葉を聞き流しているだけで言語を習得できる能力は、ある年齢までだということです。それは、幼い頃に終わりを告げます。だから、その年齢以降になって、英語を聞き流しているだけで、英語が身に付くと考えるのは愚かです。また、英語を使って、例えば福島原発の事故について外国人と会話をしようとしたら、確かな文法の基礎が必要です。自分の考えを英語で伝えることは、思っているほど簡単なことではありませんから、勉強は絶対に必要です。
皆さんは甘い宣伝文句に騙されてはいけないと思います。ただ、もっと正確な言い方をさせてもらえば、聞き取りの訓練にその教材を使って、その上で文法も並行して勉強していけば、大きな効果は得られるかも知れません。聞き取り教材の効果的な使い方は、何度も何度もテープやCDを聴いて、聴き取れた英語をノートに書き留めることです。そして、付属のテキストで答え合わせをする。そうすることで、自分がなかなか聴き取れなかった部分が、実際にはどんな英語だったか、驚きと共に学ぶことができるでしょう。この作業は、ディクテーションと言われます。また、その作業に慣れたら、テープやCDから聞こえてくる英語の後に影のようについて、音読することです。これを、シャドー・リーディングと呼んでいます。宣伝されている教材も、こんな勉強を伴うことで、大きな効果を発揮する可能性があると思いますが、ただ聞き流しているだけでは無理でしょう。
私が学生の頃には、ネイティブの英語を録音した教材はそれほど多くはありませんでしたから、ラジオの英語会話を録音して、それを活用したものです。何度もテープを聴いて、それをノートに書き取る。それから、テキストで答え合わせをするのです。この作業は、リスニングの力を飛躍的に向上させてくれると共に、英語を話す力も伸ばしてくれます。台所仕事をしながら、ヘッドフォンで教材を聞き流す光景は、いかにも現代的で科学的に見えるかも知れません。でも、「苦あれば楽あり」という格言が意味するように、楽をして大きな成果を得られることはまずないのです。
英語学習熱は今もまだ健在です。だからこそ、いろいろな英語教材が次々と現れるのでしょう。その宣伝に、有名人が関われば信憑性は高まるばかり。ちなみに、赤ちゃんが英語を聞き流して覚えたと言っていますが、赤ちゃんは丸一日英語漬けになっていることを忘れてはいけません。日本人が英語を聞き流そうとしたところで、果たして何時間その作業を続けることができるでしょうか。1時間でほとんどの人は限界なのでは?先ほども書いたように、赤ちゃんには言語習得の特殊な能力が備わっています。その上で、毎日何十時間もの聞き流しをしている。ここまで書けば、「聞き流す」という作業の質の違いが分かっていただけるかと思います。
もう一度繰り返しますが、私はその教材を完全否定するつもりはありません。リスニングの力を鍛えるためにはいい教材だと思います。ただ、安易な気持ちでその使い方を誤ると、宣伝のような効果はまずほとんど得られないだろうと言いたいのです。ああいう間違った宣伝文句を耳にすると、英語の教師としてはどうしても黙っていられませんでした。
ちなみに、私は教員を辞めていた時期に、最大手の英会話学校で英会話講師として働いていました。大手の英会話学校では、文法をおろそかにしているところは一つもありません。文法の基礎なくして英会話の習得はできないというのが、英会話学校の教育方針です。「そこに行く」は"go there"であって"go to there"でないのはなぜなのか。そんな基本中の基本の文法の知識も、きれいな英語をしゃべるためには大切にしなければならないのです。「ちょっと勘弁してよ」は、英語では"Give me a break."になりますが、それはどうしてなのでしょうか。そういうことを一つ一つ勉強することがとても大切です。確かに、聴いて覚えてしまえばいいではないかと言われるかも知れませんが、それでは応用が利かないのです。「ちょー簡単」は"Piece of cake."です。それは"It's a piece of cake."を縮めた形ですが、「ひとかけらのケーキを食べるほど簡単なことだ」というのが元々の意味。英語の文法を勉強するのは、決して苦痛ではありません。
もし、英文法のわかりやすい教材が付属している同じ種類のリスニング教材が開発されたなら、非常に理屈にあった学習ができるでしょうね。それにしたって、思っているほど簡単に英会話は身に付かないとは思いますが。「それじゃあ、お前はどんな勉強を続けているんだ?」と叱られてしまうかも知れませんね。私の場合は、大したことはしていませんが、英会話の力が落ちないように、毎日
ある程度の長さの英語の日記を書いてHPに掲載しています。そのときどきの話題をできるだけ取り上げるようにしています。分からない言い方があれば、徹底的に調べて、新しい語句も覚えるようにしています。それでも、すぐに忘れてしまうんです。「継続は力なり」を信じてやっているだけなんです。

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