その日は11時10分を回ったが相手は来なかった。役場へ向かう事にしたが、この時間に行っても昼休みで待たされるのが落ちである。暇つぶしに近くの食堂でピョウと二人で食事をした。そこに一本の電話がピョウに入った。どうも昨日のお客さんらしい。役場の職員を知っているらしく、一緒に役場へ行ってくれるということだ。昨日のことをこのお客さんも心配してくれているようだ。午後の1時に近所のラジャパット大学で待ち合わせることになった。
年は30代後半、タイでは珍しいワイシャツにスラックス姿。ラジャパット大学の会計士さんということである。先日、
「いい弁護士さんを知っているから紹介してあげるよ」
と心配してくれたお客さんであった。コーヒーハウスを経営して4年半、いかにいいお客さんが居たのかと感心させられた一人である。
タイでバービアを経営するにあたって、音楽を流してよいという許可書が必要であるということを聞いたことがある。ところが、どこで聞いてもどういうものか分らなかった。今回のことで、音楽を流してよいという許可書が著作権のことだと知ることになる。
市役所か県庁なのかいまだに分らないが、何度となく許可書のことで来たことのある役場についた。ピョウと私2人で訪れた時より職員の接し方が違うような気がする。今日は身なりの良いラジャパット大学の会計士が一緒である。友人には思えないが、明らかに好印象な接し方である。早速、音楽を流してよいという許可書のことを相談しているようだ。昨日の著作権協会の振る舞いについても説明しているようだ。この時いかなる対処もできるように会社関係の書類を出来る限り持っていった。
この役場の職員が言うには、
「去年と、今年では法律が変わりました」
「今年の法改正後は、会社経営のお店では許可書が必要なくなりました」
と、また
「著作権は、カラオケに対して発生しますが、あなた方の小さなお店で、テレビすら設置していないお店に著作権など発生しない」
ということを教えてもらった。
私は一筆もらいたいと思ったが我慢した。後で言った言わないはよくある問題だ。しかしこの日は3人もの人がこの会話を聞いているのだからと・・・・・
この会話で、昨日の出来事で私たちに非がないことを確信した。
昨日から今日にかけての心配事や、ピョウに怒鳴られたことなど、昨日の著作権職員の振る舞いを考えると怒りを覚えた。
この日、心配してくれたラジャパット大学の会計士のお客さんに、おひねりをあげようか悩んだが、あげずに今晩ビールをご馳走するということで送り届けた。
この日の夜いつものように私は店でビールを飲んでいた。昼間一緒だったラジャパット大学の会計士が友人2人を連れて飲みに来てくれた。私は早々ビールをタワーでご馳走した。たかが3リッター、300バーツである。昨日のやはり心配してくれたお客さんが来てくれた。
「お姉さんがあらゆる方面に顔が利く」
「ナンバーが付いてなかった」
と指摘してくれたお客さんだ。私はこのお客さんにもビールを振る舞った。このお客さんがなぜか私にジッポのライターをくれた。好意的に友人になろうと言ってくる。私は素直に受け入れた。酒の力も手伝い私は上機嫌にビールが入った。昨日からのこと、今日のことなど語りながらビールが進んだ。ピョウに
「著作権のあの女、パパが触りまくっていたなどと言っていたの?」
と聞いてみた。それをきっかけにピョウが店の女の子たちに昨日の出来事を説明している。店の子たちが一斉に
「社長があんな女、興味あるわけないじゃない」
「そんなことをしているのを誰も見てないわよ」
などと私を理解して擁護してくれる。
「馬鹿じゃないのあの女」
などと過激な言葉も飛び交う。私は何とうれしく勇気づけられたことか。
そうこうと楽しくビールを飲み続けた。CD3枚のことなどどうでもいいやと思いながら・・・
ピョウに1本の電話が入った。一気に楽しく飲んでいたその場の空気が変わった。
「パパ。昨日お客で来ていた常連の○○○レストランの経営者が、昨日の著作権協会に手入れをくらい、いま交番に連行されている」
との連絡があった。一瞬、誰なのか分からなかったが、ピョウの説明で確かに店の常連客で、昨日手入れのあった時に居たその客が頭に浮かんだ。
私の体が一瞬で熱くなった。
「ピョウ交番へ行くぞ」
と命令口調でピョウを誘って交番へ向かった。時間は午後10時を回っていたであろうか?記憶が確かでない。
交番に着くとすぐそれだとわかる人だかりがあった。手入れを食らった昨日の常連客。またその従業員スタッフが5人ほど。
「どうしたの」
と下手くそなタイ語で聞いてみる。その経営者で昨日の常連客は
「さっき手入れを食らっちゃって、コンピューターを使ってテレビもあったし・・・」
とかなり落ち込んでいる。ピョウが今日の役場で得た知識をその常連客に伝えている。しかし
「罰金が40000バーツ」
請求されているとのことだ。
私は他人事に感じられなかった。40000バーツと言ったらこのタイでは大変なお金だ。昼間、役場を訪れ少しではあるが知識があった私は、
「年間の著作権料は、2社で9000バーツで済むこと」
「また、その著作権料の支払い窓口を、役場関係者も知らないこと」
などを伝えた。年間9000バーツで済むものを、40000バーツとはふっかけ過ぎと思った私の目の前に、あの馬鹿な女が現れた。周りを見渡すが昨日の男性職員の姿は見えない。私はすかさず、そのばかな女性職員に罵声を浴びせた。
「お〜い、ワン二 タンマイ マイマー シップエ モン?」
(どうして今日11時に来なかったの?)
「お〜い、カモイ CD3バイ サンパーン バイナイ?」
(泥棒、CO3枚と3000バーツはどこ?)
「お〜い、ゲイレオ ポン マイショウ ゲイレオ」
(おばさん、私はおばさんなど興味ありません)
「ショウ サウ サウ」
(好きなのは若い子だ)
とどこまで通じたか分からないが、私が怒っているのは伝わったことだろう。
その女性職員は何も反論することもなく、交番の中へと逃げるように行ってしまった。私はその様子を嬉しそうに眺めていた、常連客やそのスタッフに
「スースー オットン」
(がんばって、負けずに頑張りましょう)
と自分に言い聞かせるように声をかけ、女性職員の後を追って交番へと向かった。
次回『完』につづく

3